コメントがつっこみにかたよりがちのため、雰囲気だけはかわいらしくしてみました(笑)。
男性作家の手になる恋愛小説というのは大抵趣味に合わないことが多いのですが、この作家さんの作品だけは例外的に大好き
(恋人を「あなた」と呼んで様になる主人公、なかなかいませんから)。 甘ったるくもなく、泥臭くもなく、ジョークの効いた会話が楽しめて、さらりとした読後感が残るのがお気に入り。 登場する女の子も割と意志のはっきりしたキャラクターがほとんどで、その点も好みです。 |
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著者19歳のデビュー作。 夏期講習に通うため上京してきた高校三年生の主人公が素敵な女の子に出会って・・・で始まるストーリー。男性作家がこういう設定で書くと、四畳半くさくなるか、やたらに金のかかった話になるか、どっちかという感じで、これだけさらりと描かれた小説はめったに読めない、と思います。 上京してきたばっかりの人間がこんなにきれいな標準語を使えるわけないじゃん、と微妙に突っ込みたくならないでなないですが、ケンくんの科白がオール広島弁だったら小説のイメージぶち壊しなのは間違いないので、なんとも言えませんね(笑;作者広島出身なんだから、よくお分かりだろうし)。 |
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ラジオのディスクジョッキー、金属の花作りをしている人、コミックの原作を書いている
法科の大学院生、ゴーストライター、をそれぞれ主人公にした短編集。 お話として一番好きなのは、写真家の彼女の登場する「チープ・スリル」ですが、一番お気に入りの場面は「ジェラス・ガイ」の、お互いにおヨメにもおムコにもいけない体になってしまったなあ、のくだり(笑)。他にも、突然出ていった恋人と電話で喋るシーンに「ぼくは相当に動揺してるんだけどね。動揺だぜ、歌謡曲なんて突っ込みはしないでくれよ」なんてセリフが登場するのが愉しい。 |
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音楽室でピアノを練習中、北沢良一は、野球部のエース羽根木徹也から、明日の試合をビデオに撮ってくれるよう頼まれる。そのビデオは入院中の徹也の幼なじみ、上原直美に見せるためのものだった・・・。 中学三年生の3人のみならず、直美のお父さんなど、周囲の大人たちもきちんと書き込まれていて、印象深い作品になっています。 初めて読んだのが高校生の時だったため、東京に生まれなくて良かった、としみじみ思ったものでした(○能研とも○谷○塚とも無縁の学生生活を送れましたから)。 しかし、イマドキの中学生が「多情」なんて言葉を使うか? とは思いますけど・・・。
以下余談。大学時代に井の頭線に乗ってたら、窓の外の、看板か何かで住所に“羽根木”とあるのが目に入ったんですよ。この小説思い出して、そういう地名もあるんだー、と思ったところで、待てよと思いまして。“下北沢”があるのは“北沢”。
“明大前”があるのって確か“和泉”で、小田急線には“代々木上原”とか“千歳船橋”なんて駅がなかったっけ?
全部発見(笑)。登場人物の名字、みんな世田谷周辺の地名からとってたんですね〜。 |
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読み終わった後、思わず肩をとんとん叩いてしまった小説。 文庫版あとがきに「多くの男性から、悠子ちゃんは可愛いと言われ」とありましたが、ほんとに 男性が読むと「可愛い」と思えるんでしょうか? 私は完全に「何考えてんのかわかんなくて怖い」派 でした・・・ ある日偶然に初恋の人と再会、しかし彼にはすでに婚約者がいて・・・というわけでいわば不倫小説。登場人物の心理がきちっと書き込んであって、それがあまりにリアリティありすぎなのでくたびれてしまったわけですが(本自体はそんなに分厚くもないです)、引っかかるところもあることはありまして。 主人公、出生の事情がトラウマになっているという設定なんですけど、母親のことを調べる手だてがない、というのはどうかと。 だって、特別養子制度導入前の話なんだろうから、戸籍を見れば絶対母親の名前は分かるはずだし、 直系尊属の戸籍は閲覧可能なんだから、全く手がかり無しってことはないだろうと思うのです。 それに、葬式だの相続だのやって、籍のこと隠しとおせるもんかなとも思うし・・・ |
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10人の関わりのある女の子の恋模様を描いた連作短編集。関わりのある、というのは、高校・大学のクラスメイトだったり、姉妹だったりバイト先の先輩後輩だったり、と人間関係がどこかでつながっているということ。性格はそれぞれみごとに違ってますが。 恋模様といっても、妻のいる従兄との不倫だったり、浮気者の恋人だったり、そこまでいかなくてもちょっとしんどい話が多い。でも、恋愛といっても人間同士の付き合いなんだから甘いばっかりではすまないわけで、そのあたりの心理の書き込みにすごくリアリティがあります。 個人的に、登場人物の中では「あなたが好きだから」のはづきちゃんが好きですね。「真っ直ぐ」で「見とって気持ちええ」ですので(笑)。 ちなみに、どの話にも共通するのが電話が重要なモチーフになっていること。ファックスもポケベルもでてこない、とあとがきにありますが、今やケータイ大全盛の時代。すれ違うのが怖くて公衆電話を探しにいけない、なんてシーンがありますが、今じゃあまりありそうにないですね。初めて読んだ時は高校生だったので何とも思いませんでしたが、今読むと、そのあたり、ちょっと時代を感じます。 時代といえばあとパソコンもかな。パソコンやるからおたく扱いってのもまずないでしょう。まあ、アメ横(東京で言えば秋葉原)に出入りしてるとなると、ちょっと考えますが・・・。 |
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他人の濡れ衣を我がことのように怒り、積極的で、それがゆえにアウトサイダーだった美少女・柳沢真琴。「私」が小学校6年生の時から憧れ、追い続けた彼女は、中学2年の一学期の終わり、ある出来事を境に急速に変わっていった・・・表題作「さようならアルルカン」他3編を収録。 初めて読んだとき、氷室さんてこんな小説も書いてたんだ〜、と驚いた初期短編集。くだけた感じの一人称で小説を書く人、というイメージがあったのですが、この本ではラストの「誘惑は赤いバラ」以外の3編がどれもかなりシリアスなトーンの作だったので。 やっぱりなんといってもお気に入りは表題作。「傷つきたくないばかりに人々に迎合し、愛想をふりまくことで得ていた安全な日々が、どれほど醜悪なものであるか」を知って自分を取り戻そうとする主人公。初めて読んだのが高校生の時だったので余計印象深いのですが、今読んでも、しみじみといい小説だなあ、と思います。 |
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何かというというとすぐに自分の葬式を出す死に癖のある緑子、秀才ながら考えることは訳が分からない汀子(葬式に平然と曼珠沙華を持ってきたり・・・)、という主人公の友人二人をはじめ、なかなか個性的な面々の高校生たちの登場する物語。なにせ「二日酔いにはなりたくない。明日は予備校の集中ゼミがあるんだ。ウイスキー出しな」なんてセリフで話が進むときてます。 主人公多佳子さんの語り口もなかなかざっくばらんで(例えば男の子を評して“確かに面はいい”だったり)、女の子の一人称でこれほどロマンチックにならない小説も珍しいだろうなあと思うくらい。おかげで読んでて気恥ずかしくならないのが大いに気に入っているのですが。 大学でちょっとお茶をかじってから読んだため、点前のシーンなど、状況が分かるのも個人的には面白かったです。(おしとやか、なんて先入観もありませんでしたしね;笑) |