“悲劇の美女”

(個人的感想)

材料が尽きた時にでもネタにしようかな〜と思ってた話なのですが、諸事情により(笑)急遽アップ。
ええ、本を拾い読みしただけで、いいかげんなこと書いてるのは分かってますが・・・
(ネタ本は『ハプスブルク家の女たち』(江村洋/講談社現代新書)、『ハプスブルクの女たち』(ライトナー/関田淳子・訳/新書館) 知識の出所がはっきりしてるのは読んだ本が少ない証拠・・・;汗)
雑記というより単なる個人的感想でございます。

というわけで。
個人的につくづく不思議なんですが、世間様で人気がある歴史上の女性、印象としては“何もしなかった人”であることが多いんですよね。ハプスブルク家の女性といえば、マリー・アントワネットと皇后エリーザベトが二大巨頭であるらしいのですが、どちらにしてもやはりその印象が否めません。(わたくし、『ベルばら』を通しで読んだこともなく、タカラヅカも一度も見たことがありませんので念のため。)

マリー・アントワネットについていえば、断頭台の上での死という尋常でない死に方ではありませんから、インパクトがあるのは、まあ分からないでもない。んでもって、結婚して何年もダンナに相手にされない生活をおくったがゆえに、浪費と享楽に走ったのだ・・・と同情的に言えないこともない。しかし、わざわざ取り上げられるほどの人物とは到底思えない。
他に人材がいないというのならともかく、ハプスブルクの出身で、その行動が魅力的な女性はごまんといるとあっては、いよいよその印象が強いのです。
例えばナポリ王フェルナンドに嫁いだ姉のマリア・カロリーネは、凡庸な夫を叱咤激励して、あのナポレオンに立ち向かっているし、母親のマリア・テレジアにしても、23歳の若さで即位するやいなや直面させられたのが、周囲の国に領土を狙われ、夫や重臣は頼りにならず、おまけに軍隊も弱体、という絶体絶命の窮地。そんな状況に置かれながら、けして好意的とはいえないハンガリー議会に自ら乗り込んだりしてシュレジェンのほかはみごとに領地を守り抜くという、末娘などとは比較にならないスケールの行動力を発揮しているんですから・・・

“悲劇の死”というなら、個人的に推したいのがブラジル皇后レオポルディーネ。
なまじ聡明なしっかりものであったばかりに、ブラジルなんぞに嫁にやられ、ブラジルの文化向上と独立に大きく貢献したにもかかわらず、ダンナはほかの女にうつつを抜かすわ、挙げ句その女を皇后付きの女官にして、生まれた子どもは一緒に育てさせるわ、とひどい扱いを続けられ、結局産褥熱で死亡。 国民には慕われていて、間違っても「パンがなければブリオッシュを食べればいいのに」と言ったなどという逸話を残されるおそれもなかったらしい。やっぱり、精一杯やるべきことはやったけれど・・・だから“悲劇”なんじゃないかと思うのです。惜しむらくは、そうひどいご面相ではなかったにしろ、後世に伝えられるほどの美貌の持ち主でもなく、ツヴァイクみたいに感動的な伝記を書いてくれる人もいなかったということなんでしょう。やっぱり美人は得ということか・・・

その“美貌”で有名なのが皇妃エリーザベトですが、自分の容姿にえらく執着していたという以外の話をほとんど聞いたことがありません。従兄弟の“狂王”ルートヴィヒともども、エピソードとしては面白い存在だけど、何か歴史の流れからすると“本編”ではなくて“番外編”という感じ。“皇后”なんかになってしまったこと自体がご本人にとっては不本意だったんでしょうけど、この頃の帝国内の民族問題がなかなか面白かったりするだけに、物足りない印象が強いのです。
もっとも知名度の割に、未だに名前を正しく発音してもらえないのはお気の毒というべきか。
(ドイツ語読みだとエリーザベトが正しいのですが。)

ちなみに彼女の長男ルドルフ、男爵令嬢マリア・ヴェツェラとの悲恋の物語で知られていますが(「うたかたの恋」という映画になっている)、本命の高級娼婦に心中を持ちかけて逃げられ、それでも一人では自殺できなかったので、というのが実際のところらしく(諸説ありますが)、よそでもらってきた病気を妻にうつして不妊症にしてしまった、なんて話まである始末。
おかげで、周囲の猛反対にも屈せず伯爵令嬢との身分違いの恋を貫き、根性で結婚まで粘り抜いた従兄弟のフランツ・フェルディナンドの方が断然ひいきになってしまった私(笑)。併合したばっかりのボスニア・ヘルツェゴビナにのこのこ出かけていったあたり、政治感覚を疑われてもしょうがないところではありますが、(この夫婦がサラィェボで暗殺されたのが第一次世界大戦の直接のきっかけ)「馬鹿息子」でも「遊び人」でも「甘ったれ」でも「妻泣かせ」でもなかったようですし・・・ (©よる様・「読書日記」11/6)
「身分違いの恋」とか、「夫婦ともに銃弾に倒れての最期」とか、キーワードはあるんだから、ルドルフで映画が作れるなら、こちらでだって作れるんじゃと思ってみたりもするのですが、“王冠は捨てずに結婚も”というリアリストではやっぱり一般受けはしないのかも。

2001.11.15 up

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