Armchair Detective

アイザック・アシモフ   Isaac Asimov
『黒後家蜘蛛の会 1〜5』  Tales of the Black Widowers 池 央耿 訳  創元推理文庫

特許弁護士のアヴァロン、暗号の専門家トランブル、作家のルービン、有機化学者のドレイク、画家のゴンザロ、数学者のホルステッドの6人、という面々の〈黒後家蜘蛛の会〉の会員たち。月に一度、金曜日にミラノ・レストランで晩餐会を開く彼らは、ゲストが謎の話を持ち出すと、さまざまに素人探偵ぶりを発揮する。しかし、最後に真相を言い当てるのは、必ず給仕のヘンリーだった!

SF作家アシモフの手になる純粋ミステリー。
第1話「会心の笑い」の結末の巧さに、すっかりファンになりました(笑)。
ヘンリーの推理の鮮やかさもさることながら、とにかく話題が幅広い。シェイクスピア、「不思議の国のアリス」さらにはト−ルキンの『指輪物語』まで登場するかと思えば勿論、モリアーティ教授の論文〈小惑星の力学〉のような理系の話題も取り上げられていて、繰り返し読んでも楽しめる内容なのがいいです。
『2』では切手の話も2つ登場して管理人を喜ばせてくれました(笑)。

余談ですが、『2』「地球が沈んで宵の明星が輝く」ではデザートに「ブラック・フォレスト・トルテ」が出てきて、(木の実をかためたケーキ)と説明されているのですね。でもこれ、黒い森のトルテというからには、“Schwarzwälder Kirschtorte”というサクランボのケーキのことじゃないかと思うんですけど?

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ハリイ・ケメルマン   Harry Kemelman
『九マイルは遠すぎる』  The Nine Mile Walk 永井淳/深町真理子 訳
ハヤカワ・ミステリ文庫

「わたし」は大学の法学部教授をやめた郡検事。とある晩餐会でのスピーチの失態から、 ニッキイ・ウェルトに
「十語ないし十二語からなる一つの文章をつくってみたまえ。そうしたら、きみがその文章を考えたときにはまったく思いもかけなかった一連の論理的な推論を引き出してお目にかけよう」と言われたわたしは、「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という文章を思いつく。そこからニッキイが引き出した推論は、昨夜起きた殺人事件の真相を言い当てていた・・・ 表題作「九マイルは遠すぎる」ほか七編からなる、スノードン基金名誉英語・英文学教授のニコラス・ウェルトを探偵役とした短編集。

どれも些細なできごとから論理的な推論を引き出していくという趣向。というわけで少々強引かつ都合がよすぎるような印象がないわけではないのですが、なかなか面白く読めました。
ところで、第1話において「わたし」はもう郡検事になってるんでしょうか? それともまだ選挙に出てるところ? えらい表現が紛らわしいんですけど・・・

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黒崎 緑   Kurosaki Midori
『しゃべくり探偵 ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの冒険』   創元推理文庫

守屋教授のロンドンゼミ旅行の旅費を調達するべく和戸くんに斡旋されたのは、犬の散歩で日当2万円という払いの良すぎるアルバイトで・・・「番犬騒動」。ロンドンに到着した一行。しかしメンバーの一人が現地で購入した高価な洋書が紛失するという事件が起き・・・「洋書騒動」。お別れパーティで殺人事件発生。メンバーの一人に容疑がかかって・・・「煙草騒動」。帰国後に会った後輩が、留守の間に分身が現れた、ぼくはもうすぐ死ぬんだと泣き出して・・・「分身騒動」。一連の事件が最後には一つにつながる凝った構成の連作短編集。

『新本格猛虎会の冒険』所収の「甲子園騒動」がすっかり気に入って手に取った一冊。会話、往復書簡、FAX、電話、と一切地の文無しの構成。ボケの保住くんがツッコミの和戸くんから話を聞き出しながら真相を言い当てるというパターンで、このボケツッコミの漫才が期待に外れずとにかく笑えます。
「分身騒動」など、趣向は面白いけどリアリティは・・・だなあ、と正直思ったりもしましたが、まあ本格推理ってのは多分に趣向を楽しむものなんでしょうから、その方は堪能できるんじゃないかと思います。本格ファンじゃない私でも“シェパード”で『アクロイド殺人事件』が出てくるあたり、ちょっとにやっとしてしまったりして。
ところで、二人が通っている大学の名前、“東淀川大学”というのですが、これも何かの何かのパロディーじゃなかったかなあ・・・?
ちなみに、個人的に一番うけたのが「ナカゴミ、ナガトミ、ナカナノカ」の早口言葉でした。和戸くんじゃなくても言いたいぞ、なんやねんそれはって(笑)。

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