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『ゲルマニア』 Germania |
酒寄 進一 訳 集英社文庫 |
1944年ベルリン。ユダヤ人であるために公職追放された元刑事オッペンハイマーの元に、深夜、親衛隊情報部の男がやってきた。連行された先にあったのは、女性の変死体。フォーグラーという名の親衛隊将校から死体の検分を命じられた彼は、翌日ふたたび親衛隊に呼び出された。フォーグラーは、殺人事件の捜査に加わることを命じてきたのだ・・・
フレッド・ヴァルガスの三聖人シリーズ、3人揃って自分の専門以外の時代を研究している奴なんぞ認めないってあたりをにやにやしながら読んでた私。現代史は大の苦手で、ナチス・ドイツときたら尚更。これが読書会の課題本というあたりで、パスしようかと思ったくらいなのですが、席に余裕があるのを見たら、ついふらふらと…(苦笑)。
もう一つ超苦手なものが猟奇殺人の私、実在の大量殺人犯の名前がごろごろでてくるとあっては、二重にハードルが高かったわけですが、連日イギリスの空襲を受けているさなかのベルリンの描写は、割に面白く読めました。思い浮かぶ東京大空襲のイメージと大分イメージが違うのはやっぱり、ドイツとイギリスは、日本とアメリカより圧倒的に距離が近いってことなんでしょうね。
ただですねえ、ナチス将校とユダヤ人元警官ですよ。それがコンビを組んで事件を捜査をするって言われましてもです。脳内にコペルニクス的転換を要求する設定から、さらっと話が始まっても、おいそれと付いていけませんや。というわけで、読んでいていまいちストーリーに入り込めなかったのは事実です。読書会で、ナチスの中でもユダヤ人に対するダブルスタンダードのような状況があった、と聞いて何となく腑に落ちるところはあったのですが、それ、フォーグラーの側からもう少し丁寧に描いてくれなかったものかしら。
「ゲルマニア」と聞いて、タキトゥスか戦前のドイツの切手シリーズしか思い浮かばなかった私ですが、これはヒトラーによるベルリン大改造計画のことだそうで、作品の冒頭にも出てきます。…でも、これ、事件とどうつながってるのか最後までわかりませんでしたが。
あと、オッペンハイマーのクラシック音楽音楽うんちくも、結構楽しかったです。でも、もう一度通して読んでみて、あれ? となったのが「第九」の合唱が出てくる場面。あの箇所って、第4楽章開始から15分は経過しないと出てこないのですけど、作中、レコード選んで、本が炎に包まれるまでが大体1ページ。どう読んでもそんなに時間経ってない。
レコードって曲の途中からでも聴けるそうなので、男性合唱が終わる辺に針を落として聴き始めたとすれば収まりそうだけど、今度はなんでそんな半端なところから聴き始める? という疑問が。作中に「シラー」なんて暗号名も出てくるし、この場面でこの曲使いたかったんでしょうが、少々無理があるような…。
…ひょっとして、レコードの収録時間と関係がある? と気が付いて、調べてみたら、LPレコードが実用化されたのは1947年なんだそうで、当然作中に出てくるレコードは、片面の収録時間が5分程度のSP。「第九」だとレコードは8枚で、16回の入れ替えが必要だったとか。それなら合点がいきます。
で、もう1回読み直して、某レコードの片面が4分、という文章があるのは発見しました。でも、オッペンハイマーのレコード鑑賞シーン、5分おきに裏表ひっくり返しながら聴いているようには…全然読めません。LPレコードですら見たことない人いるんじゃないかなーって時代に、そのあたりを書きこんでないのって不親切じゃないんでしょうか。それに、SPってもろくて衝撃に大変弱いそうな。家宅捜索で放り投げられて、無事だったのはなぜかしら。
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