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レハール  「ルクセンブルク伯爵」

「こうもり」の実演で見たアイゼンシュタインが最高だったボー・スコウフス。あんまり面白かったんで、前から目をつけてたアン・デア・ウィーンの「ルクセンブルク伯爵」を即決で買ってしまいました。しかしこれは輸入盤、英語字幕では何やってるかさっぱりだったので、予習のつもりでユニテルの映画版をライブラリーへ見に行くことにしました。
・・・これがえらい計算違いだったんですが・・・。

タイトルロールの文無し伯爵ルネはヴェヒター。クライバー盤の「こうもり」のアイゼンシュタインです。役にははまってたとは思いますが、それほど圧倒的な印象は無かったとあって、なるほど15年前だ、そんなに老けてないし声も出てるわ、くらいな感じで見てたのですが。冒頭部分はアイゼンシュタインと割とキャラがかぶってますし。
ドキっとしたのは、「伯爵夫人、ご結婚おめでとうございます」のついたてはさんだ追っかけっこから、カーテンが引かれて「ほほえみかける幸福よ」に入った時。

えー、こんな表情もできるんだ! 
文句なしに絵になるというか、映画のワンシーンそのもの。そりゃあ映画版ですからそういう風に撮ってるんだと思いますが、どんぴしゃではまってるからすごい。確かに若くはないですが、男盛りの魅力という感じで、渋くて素敵! 現金なもので、このあたりから俄然引き込まれました(笑)。
パーティーの場面ではもう思いっきり心拍数上がりっぱなし。「さようならアンジェール。私のことは忘れてくれ」のシーンなんて、反則です。格好良すぎです。あんな顔して背中向けられたら、そりゃあアンジェール、追っかけますって。

文無しの遊び人で、でも一応貴族で、恋する男で、そしてまたアンジェールの心をつかむほど魅力的でなければならないという、考えてみれば結構難しい役なのですが、どこをとってもぴったりで文句なし。そういえば本当に男爵でいらしたのですよね。お見それしました。うーん、このくらいの年齢で「こうもり」を撮っててくれれば、大分印象が違ったかも・・・(ベーム指揮の映画版を見ろって?)。

スーキスのアンジェールがこれまたすっごい綺麗! 美人ソプラノなんて珍しくもないこの頃ですが、こういう気品のあるタイプって見たことないですねえ。とってもエレガントなのですが、お高くとまった印象にはならなくて。もう表情がいちいち魅力的で素敵です。これでもう少しまろやかなお声だと言うこと無しなのですけど。

クンツのバジル侯爵も人の良さそうな品のいいおじさまで、良い味出しててぴったりです。少々お年はいってるけど、これだけ紳士で金持ちでなおかつ貴族だったら、アンジェール、結婚してもいいわって思いますよね〜。

お金のために偽装結婚した文無し伯爵が、それと知らずに偽装結婚の相手と惹かれ合ってしまい・・・というお話。(離婚しても身分的には伯爵夫人のままなんですね〜。日本だと養子にしてもらって身分を上げるという手を使いますが。)本来彼女と結婚するはずだった侯爵のところには昔の恋人が現れて、伯爵には財産が戻り、最後にはカップル3つ成立(もう一つはルネの友人とアンジェールの妹分)でめでたしめでたし。古き良き時代の恋愛映画って感じですこぶる楽しかったです。季節外れのレープクーヘンの屋台が(あれはクリスマスのものでしょうが)パリにあるのには勘弁してくれと思いましたが・・・。

結局、こっちも買う羽目になってしまったのは言うまでもありません(笑)。
ちなみにHMVのサイトに試聴用ビデオクリップがあったので、リンクしておきます。

で、改めて手元のDVDを鑑賞したら、えーっ、全然違う!
よく見たら上演時間が30分も違うので当たり前なのですが、同じ台本を正反対の方向に改変した感じです。これでは予習の意味無し・・・。真ん中とった上演て無いのかしら、と探したら、一昨年のメルビッシュのDVDが出てるみたいです。いずれドリームライフが国内版出してくれるのかなと思いますが、知ったキャストはいませんね・・・。

細かい違いでは、この2005年アン・デア・ウィーンの映像、登場人物の名前がドイツ語読みです。アンジェールは(本名が)アンゲリカ、アルマンはマンフレート(縮めてマンディ)、ジュリエットはユリという具合。まあパリのボヘミアン連中の話をドイツ語でやるわけですから、どっちだっていいんですけど。

演出は現代風。ユニテルの映画版に比べると、品があんまりよろしくないところが目につきます。まあ若い連中が羽目外すのはまだ理解できます。しかしバジル侯爵があまりに品がないのには相当閉口。「恋してしまった」なんて正しく中年男が鼻の下伸ばしてる図で、見てるのがしんどかったほど。・・・演出家、「ばらの騎士」のオックス男爵あたりと間違えてません? アンジェール、別に親の命令でいやいやバジルと結婚するわけじゃありません。冒頭部分ではちゃんと仲良さそうです。いくら金持ちの貴族が良かったからといって、よりによってなんでまたこんなオッサンがいいと思ったのか。といったん思ってしまえば、そんなオッサンと結婚したいと思うアンジェールに惹かれるルネって・・・となるわけで、とっても感情移入がしにくい・・・。

品がよろしくないのはバジルの奥さんも同様。ええそうです、最後の幕で出てくるのは昔の恋人じゃなくて奥さんなんです。DVDのパッケージにseine Frauって書いてあるので、えーっ、と思いましたが、初っ端からバジル本人が「私は結婚している」って言ってます(そのくらいのドイツ語は分かります・・・「メリー・ウィドウ」の見過ぎで)。・・・ヒトを離婚させる前に自分が離婚するのが先ではなかろうか。というか、いくら金もらってるという弱みがあったって、ルネはそこをツッコめば逆襲できるのでは?

英語字幕に手こずりながら見たので、キーになる台詞をごっそり落っことしてるのかもしれませんが、独自の趣向があまり成功しているとはいえない演出だなあ、というのが目下の私の感想です。

ダニロよりはこの役の方がスコウフスには合っているのではなかろうか、という目論見で買ったこのDVDですが・・・。レハールの演目を2つ見て思うに、どうも私、惚れた女にグサグサやられて、傷ついたって表情にどうもトキメクらしいのです。で、どうやらスコウフス、この手の表情があまり上手くないようで・・・。この演出では、映画版と違って、「名前を売るなんて、そんな人は軽蔑します」という台詞を、アンジェール、ルネが偽装結婚の相手だということを知ってて言います(こっちが本来の設定のようです)。知っててなおかつ言われるのだから、ショックはさらに大きいはず。なのですが、怒ってる〜、てのはとっても良く分かるんですが、どうも傷ついたって方が伝わってこない。「さようならアンジェール」の場面も、あれでは追っかけようにも怖くて足がすくむんじゃ・・・なんて。カーニバルの王様になって歌うシーンや、偽装結婚のくだりは目論見どおり楽しみましたが、ヴェヒターに比べるとどうも分が悪いという印象です。
というわけでこの人、オペレッタならロマンチック路線の“銀の時代”より、ドタバタコメディ路線の“金の時代”の演目の方がぴったりだと思います。スッペの「ボッカチオ」とかなら見たいです。余談ですが、この時まだ髪の毛自前なんですね。後ろ向いたところへライトなんか当たると・・・別の意味でドキッとします(苦笑)。

アンジェール(アンゲリカ)役はユリアーネ・バンゼ。けっこう美人でスタイルもいいのですが、スーキスと比べると相当分が悪くなるのは否めません。でも歌が良けりゃ、ですが、私どうもこの人の声苦手みたい・・・(特に高音)。もとはCD制作の予定だったという割にあんまり音が良くないので(ちなみに映像は今どき珍しい4:3)、YouTubeを試聴してみましたが、やっぱりこんな感じの声なんですね。

そういうわけで、個人的には、やっぱりこの人が持って行きました(笑)。ルネの友人の画家役のライナー・トロスト。かわいい〜! 気の強い彼女に振り回されておたおたする役がすっごいはまってました。いくらこの人のフェランドが素敵とはいえ、アルバニア人の変装ばっかりいささか見飽きたところでもあり、初めて見る現代衣装での映像、しっかり楽しませていただきました。
この当時もう40歳のはずですけど、若く見えますね〜(駆け出しテノール扱いしたレビューを見ましたが、さもありなんという感じ)。最後の幕では彼女をお姫様抱っこするシーンもあり、ラストではパンツ一丁にさせられてましたが、みごとに腹筋が割れてて、ついまじまじと見てしまいましたです(笑)。
ユリ役のソプラノさんも小柄で可愛らしくて(これは映画版もそうでしたが)、見た目にお似合いのカップルでした(そして二人のラブシーンを邪魔するルネ;笑)。二重唱でSchaf(羊)のアーを羊の鳴き声っぽく歌ってるところがお気に入りな私です(笑)。

ふーん、この人オペレッタもいけるんだ、と思ったところで折良くメルビッシュの「ウィーン気質」の放送があったので見ましたが、少々ふけましたかね。でも、すらっとはしてるので、あんまりアップで撮らなきゃまだまだいけると思います(笑)。ただ、このツェドラウ伯爵はあんまり向いてないかも。ドイツの田舎もん(・・・そういう設定です)にはぴったりなのですが、どうも女たらしやってる場面がそぐわない感じ。一生懸命奥様のお好みに合わせようとしてるのね、みたいな・・・。セラフィン親子が達者なだけに、余計に。でも「マリッツァ」のタシロとかだったら似合うと思うので、見てみたいです。
ちなみに、チューリヒ歌劇場のサイトを見てたら、この演目やるんですね〜。「メリー・ウィドウ」が最高だったローナーの演出ですから、オーソドックスな中にも趣向をこらした楽しい演出が期待できそうです。「メリー・ウィドウ」よりも、歌の方ではバリトン好きには美味しい演目(いいバリトン2人揃えてくれたら言うことなし)、これでタイトルロールがご贔屓歌手だったりしたら、仕事ほっぽり出して見に行っちゃいそうですが、幸か不幸か出演者に誰も知った名前は無かったので、クビの心配は今のところないようで。

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