ユニテルの映画版オペレッタシリーズ、「ルクセンブルク伯爵」が大変気に入ったので、他のも見てみようかな、と思い、次に目を付けたのが「マリッツァ伯爵令嬢」。HMVのサイトに試聴用ビデオクリップがあり、見たら俄然興味がわいて、例によってライブラリーで鑑賞してきました。
ハンガリーの田園風景でのロケがふんだんに取り入れられていて、なかなか見応えある映像(個人的に、ツィンバロンを弾いているところが見られたのが嬉しかったです)。お話の方は、オペレッタの常で、財産目当ての求婚者にうんざりした主人公が架空の婚約者をでっち上げたら同姓同名の人物なんてのが現れるわ、占いの予言なんぞは出てくるわ、一文無しだから結婚できないわ・・・それは良かった! 貧乏人と結婚しないと、遺言で遺産はもらえないんだよ! となったり、ストーリーの展開に少々都合の良すぎるところはあるのですけど、さほど気にならずに楽しめてしまいました。マリッツァの心境の変化についていけない! という感想を拝見したことがありますが、別段何とも思わなかったのは私が女だからかしら・・・(台本作家は普通に男なんですけど)。
この演目、タイトルロールはマリッツァですけど、一番おいしいのはタシロ役なんじゃないかと思います。「ウィーンによろしく」といい、「来てくれ、ツィゴイナー」といい、抜群に印象的な良い曲揃い。是非ともいいテノールで聴きたいところですが、この映像のルネ・コロは文句なし。ヴァーグナーなどを歌う人ということで名前だけは知っていたものの、聴くのは初めてでしたが、納得の歌唱力でした。容姿の方も没落貴族のお坊ちゃまにぴったり。ただ、ちょいと物足りなかったのが、山場の、来客の前でマリッツァに面罵されるシーン。「恋のために弾いてくれ」からの歌がすごい迫力で素晴らしいのですが、どうも表情の方がその迫力に釣り合っていないんですねえ。別撮りのせいか、細かい演技にやや難があるのか・・・?
(コロの「ウィーンによろしく」。音声だけですが、見つけたのでリンクしておきました。別テイクですが、印象はほぼ同じです。)
ヒロイン役のハジ、少々高飛車なお嬢様がぴったりの容姿(令嬢というか、まあ女伯爵なのですけど、日本語としては変ですから・・・)。ハンガリー人だけあって民族衣装もコロより断然様になってるように見えました(笑)。コロとの2重唱でも歌い負けていないし、歌もなかなかだと思います。
ジュパン役は歌も歌える俳優さんらしく、ぶっとんだ演技で大変楽しかったです。マリッツァとのデュエット「一緒にヴァラシュディンへ行こう」がまたとびきり楽しい曲なんですよね。
マリッツァとタシロの恋路を邪魔するポプレスク侯爵はベンノ・クッシェ。クライバー盤の「こうもり」のフランクですね。この映像でも安心して見ていられる芸達者ぶりでした。
実を言えば、この演目に興味を持ったきっかけは、「メリー・ウィドウ」で気に入ったシェレンベルガーがメルビッシュでマリッツァ役をやっているからでした。この映像、YouTubeに大量にアップされていたので(DVDにもなってます)ちょっとずつ見ましたが・・・。タシロ役のシュコフは現代的なハンサムで、演技はコロよりいいかもと思ったくらい。歌も悪くないんですけど、これはやっぱりコロを聴いた後だとちょっと・・・です(「ウィーンによろしく」)。あと、マリッツァのお怒りの場面が凄くて、顔に水ぶっかけて、お金叩き付けて、最後に平手打ち。・・・ここまでやっちゃったら修復不可能ではあるまいかと思うのですけど?
YouTubeといえば、他にも面白い映像を見つけました。おじさん二人の昔話かと思ったら、いやー、これで「ウィーンによろしく」ですか。このタシロ役のルドルフ・ショック、ユニテルの映画版「ジュディッタ」でオクタヴィオ役をやっているそうですが、この映像の収録が1958年で、「ジュディッタ」が1970年・・・(相手役がストラータスですからねえ・・・)。いやはや、こちらはコロがタシロ役で良かったです(笑)。
しっかしまあ、カールマンてハンガリーでは人気がすごいのですね。「マリッツァ」もYouTubeでドイツ語で検索してるとそんなに数はないのですが、ハンガリー語で検索すると、出るわ出るわ。マリッツァとジュパンの二重唱なんか、Komm mit nach Varasdinで検索してもぼつぼつ出てくるだけなのに、ハンガリー語版(地名が変更されてます)のSzép város Kolozsvárだと2倍以上出てきます。中にはロシア語版なんてのもありまして、映画仕立てとしては悪くないと思いました。