Opera DVD Collection

DVD

ツェラー  「小鳥売り」

ユニテルの映画版オペレッタの国内版DVDを出しているドリームライフが、メルビッシュの映像国内版DVD化企画を始めました。とはいえ気軽に手を出すのがちょいとためらわれる良いお値段。「乞食学生」? 「小鳥売り」? とどれも知らない演目ということもあって、模様眺めを決め込んでおりました。オーストリア発行のオペレッタ切手シリーズを手に入れたらどちらも取り上げられていて、必要に迫られて(笑)あらすじは調べたのですけど。

ところが、切手記事を書いている最中に、ひょんなことから同じシリーズのメルビッシュの「チャールダーシュの女王」が欲しくなったところへもってきて、HMVがDVD2点で27%オフなんてマルチバイを始めまして。差し当たって組み合わせるあてもなかったので、オペレッタ好きとしてはこの企画応援するべきか・・・(笑)ということで目をつけたのがこの「小鳥売り」。チューリヒの「メリー・ウィドウ」のヴァランシエンヌ役がなかなか印象的だったグフレラーがクリステル役だというので興味を持ったのですが、ドリームライフが載せてるビデオクリップがとっても気に入って、「乞食学生」のビデオクリップよりよっぽど購買意欲をそそられまして。YouTubeを探してみたら、同公演の映像が無いことはなく、そのヒドイ画質のビデオクリップを見てたら、余計欲しくなってしまったのでした。だってまともな画質で見たくなるじゃないですか〜(笑)。

今まで聴いてきたオペレッタとはちょっと違い、都会風の洗練(退廃?)ではなくて、もっと素朴な感じのする曲ですが、これがなかなかに新鮮でした。メルビッシュの映像を見るのは「ウィーン気質」に次いで2度目ですが、さすがに舞台が広い! 自転車で走り回ってもせせこましさを感じませんね。しかし、あの映像では全員が顔にマイクつけてたと思うのですが、こちらでは男性陣だけ。女性陣は首飾りとかにでも仕込んであるのかしら?

お目当てで見たグフレラーのクリステル、元気いっぱいで可愛い! よろめきマダムのヴァランシエンヌも悪くなかったですが、私としては、「女とは喧嘩しない方がいい」なんて曲を元気いっぱい歌っちゃうこの役の方が断然はまってたと思うし、気に入りました。「私は郵便配達のクリステル」(参考までに。画質はヒドイです。)には、お金が無いのに結婚して、子どもができたらどうするのよ、なんて歌詞があって、思わず笑っちゃいました。自分でお金稼いでるだけあってしっかり者さんですね(笑)。

主役のアーダムは鳥刺しパパゲーノの直系子孫みたいに思えばいいのでしょうが、輪を掛けて自然児というかなんというか。こちとらにジェラルド・フィンリーのちょっと真面目なパパゲーノが刷り込まれているせいもあるかもしれないですけど、でもパミーナを口説くパパゲーノなんて聞いたことがないよ・・・と思っちゃうくらい、女の子と見ればちょっかいかけてません?
このオペレッタの中でも有名な曲に「チロルでバラの花を贈るときは」(同じくヒドイ画質)というのがあります。メロディーはなるほど最高なのですが、歌詞はえらいもんで。さっきまで自分の恋人が別の男と四阿に入ってったと怒ってたくせして、先ほど声をかけた美人にバラの花束もらったとたん、“バラと一緒にあなたもください”なーんて歌っちゃうんですよね〜。何と変わり身の早い。男って美人なら誰でもいいのね、と妙に感心してしまいました(笑)。後ろで神父(?)さんがギョロ目を剥いているのがさらに可笑しかったです。相手はお妃様なので、“バラはさしあげます。でもバラだけよ!”なのですが。

というわけで、一歩間違うとクリステルの趣味を疑いたくなるところですが、この役をを歌ったラインターラー、割と小柄で、顔もかわいらしいのも幸いしてか、上手く憎めないキャラクタを作れていたと思います。「僕のおじいちゃんが二十歳の時」といい、とりあえずこの演目で有名な曲はこの役が一人で背負ってるので、個人的に歌にもう少し注文をつけたいところはありましたが、結構出ずっぱりな上、跳んだりはねたり身軽に動けなくちゃいけなくて、しかも台詞も歌もチロル訛り。歌だけ歌えりゃいいって役ではないですし。

余談ですが、「チロルでバラの花を贈るときは」をドミンゴが歌ってるのがYouTubeに上がってたので試聴してみました。・・・が。これって「ウィーンによろしく」みたいに朗々と歌い上げて聴き映えがする曲とちょっと違うんだけど・・・、とかなり違和感。そもそも歌い口に合わせて編曲まで変わっちゃってるので、ほとんど別の曲ですね。まあ、ドミンゴがこの役やっているところなんて想像つかないし、舞台では歌わないでしょうけども。

偽大公スタニスラウス役のマルク・クレアーがこれまた良かったです。軽薄な遊び人の伯爵を実に生き生きと演じていました。テノールにしては割と好きな声ですし、すらっと背が高くて結構ハンサム(いや、本物の大公より「もっと若くてハンサム」でないと筋書き上も困るのですけど)。ラストで下着一丁にされる場面があるのですが、足長〜い、なんて思ってしまいました(笑)。馬自転車での登場シーンからして笑わせてもらいましたが、ヴェプス男爵との二重唱(これまた画質ヒドイです)も何度見ても楽しいです。メルビッシュの「乞食学生」の主役はこの人なのだそうで、そりゃあぴったりだろうなあ、と俄然見たくなってしまいました(笑)。

「おぬしも悪よのう」な(笑)悪代官、ヴェプス男爵も良い味出してました。クリステルを四阿に連れ込む場面で、「メリー・ウィドウ」の一節を歌っちゃって、それ演目が違いますよ! とスタニスラウスがストップかける場面には笑わせてもらいましたし、「清きアイーダ」の出だしのメロディーで「ア〜デライーデ」と歌っちゃうのも可笑しかったです。替え歌バージョンはアーダムにもあって、この時はヴェプスが「この偽ローエングリン!」とつっこんでました。ワーグナー聴かない私には笑えませんでしたけど・・・。

侯妃マリーはマルティナ・セラフィン。演技にオペレッタ的小回りが必要な役だとどうかな、という印象も持ちましたが、この役は「フィガロの結婚」の伯爵夫人みたいな役ですから問題なし。大柄な美人で、暗めのソプラノなのがぴったり!。YouTubeに 「私の唇は熱いキスをする」とか「今日花嫁になるけど」なども上がってますが、どれも良いですね。 キャストの中では一番オペラ歌手! って声だなあと思ったら、今はトスカとか、ワーグナーの役を歌ってるそうです。

そうそう、凸凹コンビの「私は学部長代理」の二重唱もコミカルで大好き(当該場面はYouTubeにはないのですが、後述する映画版より同曲)。その後の二人のやりとりで観客がずいぶんウケてましたが、日本語字幕ではなにが何やらさっぱりだったのがちと残念でした。

演出は、解説にはベルリン・オペレッタ風の毒気に少々違和感をおぼえるとあり、確かにマリー御一行様登場の衣装は何かの冗談かと思ったし、学部長代理の二重唱でのバックダンサーたちのカツラも意味がよく分からなかったですけど・・・。でも、音楽に素朴な印象がある割には、密猟をとりなしてやる代わりにわいろをよこせ、あと殿様には若い女の子もね、というところから始まる、少々人間くさすぎるところのあるお話ですし。個人的にはそれほどは気にならず、ロマンチックな舞台を堪能することができました。お屋敷のイルミネーションが湖に映っているところなんか最高に素敵です。あとお庭の天使の像・・・動くんですね!(笑) 民族衣装もふんだんに出てきますが、オーストリア本国での上演ですから、きっとなんちゃって民族衣装にはなっていないものと思われます。もっとも冒頭のダンスシーン、一緒に見た家族は、チロルの踊りというよりコサックダンスみたいだと言っていましたけど。

なかなか揃ったキャストで見た目に違和感がなく、演出もおおむね手堅く面白くて、手に入れて良かったと思える映像ではありましたが、1998年の収録にしては、やや画質が良くない・・・かな。原語字幕もついてないですし。

ところでこの演目、YouTubeにはルチア・ポップがクリステル役の映像なんてのもありまして。これもユニテルの映画版だと聞き、しばらく半信半疑だったのですが、別にアップされてた映像のエンドクレジットが確かにそっくり。言われてみればあのシリーズ、やたら作品が「白銀の時代」に偏ってる気がしますから、「黄金の時代」の映像が他にあっても不思議ではないのですけど。見た限りは可愛くて役にはまってると思うのですけど、なんでこれは商品化されないのかしら? (ハイライトCDは出てますが。)

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