Opera DVD Collection

DVD

レハール  「メリー・ウィドウ」

ホラント音楽祭の映像で、「これぞ理想のドン・ジョヴァンニ!」と一目惚れしたバリトン、ロドニー・ギルフリー。バリトンは、低音が朗々と響くのを好む私なので、ハイバリトンにご贔屓ができるというのはとっても想定外な事態だったのですけど。
この人、同じガーディナー指揮の「フィガロ」と「コジ」のDVDに出ているほか、チューリヒの常連さんのようで、「フィガロの結婚」「ペレアスとメリザンド」「トーリードのイフィジェニー」「メリー・ウィドウ」と結構DVDが出てます。まずはライブラリーで同じガーディナー指揮の「フィガロ」のLDを見たのですが、感想は先に書いたとおり。せっかくご贔屓になったバリトンです。一つくらいは頭の中を?マークがとばない映像で見てみたいもの。次はどれにしたものかなと思案したわけですが・・・(この時点では「コジ」もライブラリーにあったのを知らなかったんで。)

「ペレアスとメリザンド」。この人が王子様ねえ・・・と思ってたらドイツのアマゾンでビデオクリップが見れまして(当時)。現代風演出てこともありまして、それほど激しい違和感は無かったですが、今度はメリザンドに違和感が。長い黒髪の美女が雪と戯れてる図って・・・あの、私の目にはなんか雪女に見えるんですけど・・・。
「トーリードのイフィジェニー」。最近YouTubeに全幕アップされてますが、当時はビデオクリップ(当該場面)が見れました。歌唱はパワフルで気に入ったんですけど、よく分からないはりぼて(?)頭が登場する演出なのが??? 何よこれ。え、分身? そういえば同じ服着てますな・・・。DVDはPALかリージョン1しかないという親切設計だし。日本でもTV放映はされたようですが。
出世作の「欲望という名の電車」。オペラ歌手にあるまじき肉体美を披露してるんだそうで(てかオペラ歌手の形容詞に“肉体派”てついてるの初めて見た)、とっても興味をそそられましたが、これまたPALかリージョン1のみ。ストーリー的にいっぺん見たらもういい、って気になりそうだし・・・追記:ご厚意でTV放送の録画をいただきました。そのうち取り上げる予定です。確かに彼の出演作で1つ選ぶならこれだろうなあ。
非正規盤では「ビリー・バッド」がありまして、公式サイトの写真を見て、わー、腕っぷし強そうなビリーだ、これならキレて上官を殴り殺せるわ、とこれまた興味をそそられましたが、ボストリッジにして越えられなかったブリテンの壁ですからねえ・・・。追記:とか言いつつ買っちまいました。気が向いたら取り上げます・・・。
というわけで、購入したのは輸入盤ながら一応日本語字幕つきの2004年チューリヒの「メリー・ウィドウ」。これならまあ、性格異常ドン・ジョヴァンニでも、DV夫アルマヴィーヴァでも、サイケ調のパパゲーノでもあるまいよ、と。いくら斬新な演出の多いチューリヒといえど、やたら分身が出てくる演出じゃないでしょうよ、と。スケジュールを見てたら来年「こうもり」で来日予定なので、オペレッタのお手並み拝見、てな要素もありました。
しかしですね、「メリー・ウィドウ」ってこういう話なんだそうです。

ハンナとダニロ(伯爵)は恋人同士。しかしハンナが平民の娘だというのでダニロのおじが結婚に猛反対。ハンナは金持ちの老人と結婚してしまいました。ところがこの老人が結婚後すぐに亡くなってしまい、莫大な財産を相続して未亡人になったハンナはパリへ。ダニロは大使館書記官としてパリに赴任中。再会するやいなやケンカの続きを始める二人。お互い未練はあるのに、男なんてみんな金目当て、と言い放つハンナに、ダニロは意地でも愛してるとは言えなくなってしまいます。そこにハンナの財産が国外流出するのを恐れてダニロにハンナとの結婚を命じる公使と、保身のために自分のツバメをハンナに押しつけようとする公使夫人ヴァランシエンヌの思惑が絡んで・・・

ええ、この人に洒脱な遊び人が似合うのか、というあたりに一抹の不安が。ネットで見れる限りジャケ写にはハンナしか写ってないし。

ツーショットの写真は、パッケージ裏側に載ってました。あら、なかなかいいじゃない、というわけで、最初をことごとくすっとばして酔っぱらい登場のシーンから見始める私(笑)。正装してるとこ初めて見ましたが、階段の踏み外しぐあいといい、お帽子くるっと回してステップ踏んで、なかなか軽やかな演技じゃないですか。うん、これなら仕事さぼり倒してキャバレー三昧、4日も寝てない遊び人にちゃんと見えます。髪の毛もヘタにいじらずくしゃっとさせてるだけなので違和感ないのも良し。(固めたりカツラかぶったりするとゴツさが強調されるので、止めた方がいいと思いマス。)
とりわけお気に入りは1幕のラスト。ダンスの相手にダニロを指名するハンナですが、そこはダニロ素直に受けず一騒動。もう踊らないわと腕組みしてそっぽを向くハンナを、上手に踊る体勢にもってっちゃう。これがスマートにセクシーで素敵♪ やんちゃな表情が素敵♪ ってあんまり気に入ったので、ここばっかり繰り返し見てしまい、なかなか先に進めなかった私でありました(笑)。パッケージ裏側の写真もこのシーンから。しかしこれをスキャンすると大きさ的にバランスが悪いので、こっそりキャプチャ画像を載っけてみます。

 

ほかに途中で止まった箇所というと、ハンナとコロを踊る場面(最後お姫様抱っこ♪)。その次くらいに有名なデュエットですね(笑)。
なにせ背が高いので舞台映えすること! 女の子引き連れて戻ってくるシーンも、ダンサーさんたちに埋もれないし(結構背の高いお姉さんいますよ)、直後のダンスシーンも頭一つ抜けて目立ちます。表情の演技もきっちりで、公使とのやりとりは楽しいし、男の哀愁というか、切ない表情もあってドキドキ。ネイティブと比べると差は付いてる感じですが、セリフ回しもまずまず。崩れてそうで崩れてない、器用なんだか不器用なんだかってあたりが、とっても魅力的なダニロでした。この人が演じる限りどっかにワイルドさは出るので(低音部分に地声を入れたりしますしね)、うんと貴族的なダニロを期待する人には合わないかもしれませんが(そういう感想も拝見しました)、私としては満足です♪ これ、なかなかの当たり役じゃない? と思ったら、2007年はロサンジェルスとダラスで歌ってるんですね。

シェレンベルガーのハンナも素敵♪ まさしく“hochelegant”。背の高い美人でスタイルも抜群なのですが、表情豊かでお芝居も上手くて、気が強くて頭の回転も速いオトナの女性という感じの、すこぶる魅力的なハンナでした。こちらはネイティブですし、セリフ回しもさらに上手。このセリフの声が低いのがまた個人的にイメージにぴったりで好みです。これで高音がきれいに出せれば文句のつけようがないのですが・・・。中音域は結構魅力的なんですけどねえ。というわけで、「ヴィリヤの歌」だけは別の歌手でも聴いてみたいような気がします。
しかしこの演目、主役2人は別の意味で大変な役だなあと思います。文字通り歌って踊れないといけないし(「唇は黙して」みたいな有名曲があるので、歌があんまりひどくても困ります)。容姿端麗でないと見てて辛いもんがあるし、話の大半が恋の駆け引きなので、ラブシーンがヘタだと見られたもんじゃないし・・・。

ほかの歌手さんもみなさん芸達者揃い。グフレラーのヴァランシエンヌ、こちらも美人でスタイル良し。踊り子さんたちと一緒に踊る場面があってこれまた大変な役なのですが、コミカルな仕草なんかもとっても上手。歌唱も安定して聴かせてくれましたし、ハンナとのキャラの差がきちんとでているのも良かったです。プリコパのニエグシ、「こうもり」でいえばフロッシュみたいな、セリフで笑いをとる役なんですが、この人がまたとぼけた演技が上手いのなんのって。めちゃくちゃ笑えました。あえて難を言えばベチャーラのカミーユか。「椿姫」のアルフレートが紛れ込んでるみたいな場違いさを感じなくもなかったですが・・・まあ歌も踊りもちゃんとしていたので、まずまず及第点てとこでしょうか。

とっても正攻法ですこぶるまとも、その時代を感じさせる舞台。それでいて独自の趣向もあって楽しめる、よくできた演出だと思います。ハンナとダニロの再会シーン、ハンナは“いびき”で、ダニロは“脚”で相手を認めるのがおかしいのなんのって(笑)。2幕に男声陣で「女を理解するのは難しい」と歌う場面があるのですが(「女・女・女のマーチ」っていうそうです)、これに続いて今度は女声陣で「男を理解するのは難しい」ってやるんですよ〜。この「男・男・男のマーチ」がどうやら独自の趣向らしいのですが、女としてはそりゃこっちのが楽しいし(笑)。キャバレーの踊り子のシーンも面白かったですし、演奏も、勢いがあって楽しい曲をテンポよく聴かせてくれてこれまた良し。カーテンコールがまた傑作で、ピンクのボアを首に巻いて、歌って踊る指揮者ウエルザー=メストが見れます(指揮台にはニエグシ)。なかなか足がよく上がってます(笑)。
しかし、好みの演目を、いい演出といい演奏、それにご贔屓の歌手で楽しめるって最高に幸せですね〜♪

これはドイツ語圏のチューリヒで、観客がセリフを理解できるからだと思いますが、全体のセリフ回しにまで神経が行き届いてるのも良かったです。お客もよく反応して笑ってますし、かつての落ちこぼれ学生にも、日本語字幕があるおかげで結構聞き取れました。最後のダニロのセリフ聞きながら、おお接続法第2式だ! などと思ったり(笑)。個人的には最後に“nicht(=not)”をつけてオトすところが大好き。“日本語は最後までイエスかノーかが分からない”なんて言いますが、ドイツ語だって決まってるのは動詞の位置だけなので、最後に“nicht”でひっくり返すことが可能。これは英語では不可能な芸当ですが、英語版てどうしてるのかしら。“Ich liebe dich.”(あっ違った)“Sie.Ich liebe Sie.”(えーいもういい)“Dich.”って言い直すとこも楽しいです(日本語字幕は無し。さすがに翻訳できなかったんでしょうな)。普段99%何言ってるか分からないイタリア語だのフランス語だの聴いてるので、やっぱり聞き取れると嬉しいもの。ドイツ語っていいなあ、などと思った次第です(笑)。

というわけで大変ありがたい日本語字幕でしたが、やはり輸入盤、日本の会社が作ったら、これで商品にはしないだろうなあって箇所はありました。でも、意味が通らなくて? だったのは1カ所くらいだったので、まあ合格点でしょう。面白かったのは「男・男・男のマーチ」のところ。「ロミオ ジゴロ ドンホアン」て字幕が出てくるのですが、最後がどうしても「ドン・ファン」には聞こえなくて。とっても気になったのでドイツ語字幕に切り替えたら、出てきたのは“Don José”。ドンジョじゃなくて「カルメン」のホセじゃないですか〜。確かに“ジョゼ”って言ってますわ。

楽しくて、テノールを差し置いてバリトンが主役をはれて、しかもちょっとは分かるドイツ語! ウィンナオペレッタ、私にとってはなかなか美味しいジャンルのようです♪
さて、夏の「こうもり」、ギルフリーはファルケで、アイゼンシュタインはボー・スコウフス。
YouTubeでスコウフスとカリタ・マッティラとの「唇は黙して」のデュエットが聴けまして、これがなかなか良い雰囲気。あら、バリトンの声としてはこっちの方が私の好みじゃん、なんて思ったこともあり、俄然この二人の組み合わせでのパリ・オペラ座公演の映像に興味がわいたところ、これまたYouTubeにアップしてくれる人があって見れました。最近DVDになったドレスデン公演(ハンナはシュニッツァー)のもアップされてて2種類見れたんですが・・・(サンフランシスコの映像は英語上演だからパス)。

どちらもまず、演出に馴染めませんでした。何か妙に現代風の舞台。曲の雰囲気に合ってない気がします。それにポンテヴェドロって東欧の小国という設定で(モンテネグロのもじりだとか)、音楽もスラブ音楽を取り入れてるんだそうですが、なぜかオペラ座の舞台ではインドあたりに変えられてて、これも違和感きつかった(「ラクメ」だないんだからさ)。それに、見た限りにおいてはセリフ回しが今ひとつ。よく考えたら片方はオペラ座。当然客はドイツ語分かりませんわな。ドレスデンのも演出家がサヴァリだそうで、フランス人がセリフ回しにまで気を配って演技つけたとも思えないし。例のデュエットも、オペラ座の方は直前の会話がなんか喧嘩してるみたい。もう少し目のやり場に困ってくれないものかと。ドレスデンのは、「お馬鹿な騎士さん」の二重唱が、丁々発止というよりただの痴話喧嘩にしか見えず・・・。それに、例のデュエットの直後、短いカンカンのフィナーレがあって幕ですか! それはちと乱暴では・・・?
あと、スコウフスなんですけど・・・これが妙にオーバーなドタバタ演技なんですわ(演出家、止めてやって・・・)。物議をかもしたザルツの「フィガロの結婚」でこの人伯爵やってまして、YouTubeで見てる限りにおいては、オーバー演技で面白いな〜、なんて思ってたんですけど、あれはあの演出だったからこそ面白かったんでして。ちなみに、2つ比べると私はドレスデンのが格好良いと思いました。
というわけではからずも、チューリヒ公演の出来の良さを再認識する結果に。まあ、この元気いっぱいのドタバタ、アイゼンシュタインには大いに向いてると思うので、逆の意味で期待はふくらみましたけど(笑)。

CD


スコウフスのダニロはCDもあります。指揮がガーディナーで(演奏はウィーンフィル)、トロストがカミーユだってんで、気にはとめていたのですが、輸入盤の中古でとんでもなく安いのを見かけたので買ってみました。CDプレーヤーの前に正座、なんて真似は私にはできないので、部屋の片付けなどしながらながら聴きしてたのですが、面白いことが判明。DVDでは普段すっ飛ばしているシーンにばかり耳が反応するじゃありませんか。

そう、見てるとなんかかったるい、カミーユとヴァランシエンヌの二重唱。これがトロストボニーだとうっとり聴けるんです(笑)。さすがは目下唯一の歌を聴いててときめくテノール、「コジ」に引き続いて、この声で口説かれたら落ちるわあ、なんて思いながら聴いてたりして。ボニーが舞台でフレンチ・カンカンを踊れるのかどうか寡聞にして知りませんし、多分レコーディングだからのこの配役なのでしょうが、こちらもぴったりでした。

ちなみに主役カップルはといいますと、理由は不明ながら、スチューダーのハンナがすっごい聞きづらい・・・。スコウフスも若いので仕方ないんでしょうが、「女・女・女のマーチ」ではダニロのパートってどこだっけ、なんてふと思ってしまったり。
ちなみに公使はターフェルです。なんつー贅沢なキャスティングかと思いましたが、聴いているとなんとなくクロモーのが合ってる気がします・・・(さらに歌うとこ減りますが)。なんか、ターフェルが公使だと、ダニロをどやしつけても説得力がないというか、一緒にマキシムに繰り出しちゃってそうな気がしなくもなく・・・

しかし、セリフは最小限なのでしょうけど、この演目でCD1枚ってのは、詰め込み過ぎではないでしょうか。ご贔屓指揮者なだけに、ライブ録音で聴いてみたかったと思います。悪くもないんですが、オペレッタをスタジオ録音する無理を感じるというか・・・。暇があったら評判の高いマタチッチ盤でも聴いて比較してみようかな。

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