Sciense Mystery

アーロン・エルキンズ   Aaron Elkins
主人公ギデオン・オリヴァー教授。人類学者にして人骨鑑定のエキスパート、別名が「スケルトン探偵」と聞いて、いかにも教授然とした、よいお年の方を想像していたものですから、元ボクサー(アマチュア?)で、いささか子どもっぽいところのある40代の教授の登場にいささか面喰らったのでした(読む前の予想は、どちらかといえば恩師エイブのキャラクターでした;笑)。もっとも、元ボクサーとはいえ、腕っ節を披露するような場面は見たことありませんが・・・
骨から性別、年齢、生前の生活までも推理する、形質人類学に関する専門知識をいろいろと扱っているとはいえ、ユーモアたっぷりの作風で読みやすく、愛妻ジュリー、恩師エイブ、FBI捜査官ジョン・ロウなど、登場人物も個性豊か。ジュリーも推理に参加して、なかなか鋭い意見を出したりすることもあり、おしどり探偵の趣もあります。オリヴァー先生の鑑定もたまにはひっくり返ることもあり、神のごとき名探偵、という感じではなく、登場する警察関係者もみなさん好感の持てる人物ばかりになっています。
未訳の第一作はドイツ、2作目がワシントンのオリンピック国立公園、3作目でフランス・・・と舞台設定もなかなか豪華。丁寧な描写に、その土地の雰囲気が味わえるのも楽しいです。
『暗い森』

オリンピック国立公園で、行方不明になった女性ハイカーの捜索中に見つかった白骨は、ギデオンの手によって、6年前に失踪した男性ハイカーのものと判明した。が、骨に刺さっていた凶器はこの雨林に居住していたはずのないインディアンの骨槍だった。普通の人間にはできない、かなりの力で突き刺さっていたことから、マスコミは伝説のビッグ・フットかと色めき立つのだが・・・

ギデオンとジュリーの馴れ初めが描かれる記念すべき作品(笑)。 事件を担当するのはジョン・ロウ、恩師エイブも登場でレギュラーメンバー総出演。特にエイブがサスクワッチ協会の人間にギデオンを引き合わせたり、重要なヒントを指摘したり、となかなかいい味を出しています。


『断崖の骨』

ジュリーとの新婚旅行の途中で立ち寄ったドーチェスター博物館からは古代人の人骨が消えていた。
イギリスの青銅器文明はミケーネ人が直接移住したことによる、と主張する旧友が指揮をとっている発掘現場はなにやら不穏な雰囲気で、発掘の手伝いをしていた学生から、内密に話があるとギデオンは相談を持ちかけられたのだが・・・

前作で知り合った公園保護官のジュリーと、めでたく新婚旅行にこぎつけたオリヴァー先生。
しかし、新婚旅行先でも事件に巻き込まれ、白骨死体ならぬ腐乱死体の鑑定をさせられるわ、「バスカーヴィルの犬」ばりの猛犬には襲われるわ・・・ご苦労様でした(笑)。


『古い骨』

館に一族を呼び寄せたばかりの当主が溺死し、数日後、地下室から第二次大戦中のものと思われる人骨が発見された。折しもサン・マロで科学捜査会議の講師をしていたギデオンは鑑定を依頼されたが、さらに親族の一人が毒殺される事件が起きる・・・

舞台になるのはモン・サン・ミシェル。ジュリーはお留守番ですが、ジョン・ロウは研修の夜のモン・サン・ミシェル
ため、一緒にフランスに滞在中。ギデオンとのボケとツッコミのような会話は相変わらずです(笑)。
事件の方は、好人物とはほど遠かった被害者にはほとんどの関係者にもっともらしい動機があって・・・というオーソドックスなミステリー。過去のレジスタンス運動がからむ白骨死体の正体も二転三転、結末の意外性も十分です。


『呪い!』

論文の執筆が煮詰まっていたギデオンは恩師エイブの依頼を受け、愛妻ジュリーとともにユカタンへ とんだ。数年前に絵文書の盗難事件が発生し、封鎖されていた遺跡の再調査中、人骨が発見されたの で鑑定を頼まれたのだ。骨と一緒に発見された古文書には呪いの文句が記されてたのだが、やがてそれらしき事件が次々と起こり、ついには殺人まで起きてしまった・・・

今回の舞台はマヤの遺跡・トラロック。盗難事件の犯人と絵文書の行方、という未解決の謎に、呪いの件はどう絡むのか・・・という興味がストーリーを引っ張る展開。
発掘に参加するアマチュアメンバーは別荘地の売り込みに熱心な不動産業者や神秘主義的言動でメンバーを閉口させる通信販売業者の妻、などなかなか個性豊かな面々を揃えています。
個人的に、「おはよう、ぼくは吸血キンカジューです」のくだりには大爆笑させてもらいました。


『氷の眠り』

遭難救助研修に参加するジュリーに同行してアラスカのグレイシャー・ベイにやってきたギデオン。折しも、30年前にこの地で遭難した植物調査チームの関係者がこの地を訪れていた。記念碑設置のために氷河に出かけた彼らは、当時の犠牲者のものと思われる遺骨を発見。ギデオンが鑑定したところ、意外な事実が判明した。骨には殺害された証拠が残っていたのだ・・・

退屈しのぎに骨の鑑定を引き受けたところが、またもや複雑な事件を招き寄せてしまったギデオン。おかげで南国育ちで寒さ嫌いのジョン・ロウが、よりによって極寒の地アラスカで事件の調査に当たることに(笑)。
犠牲者の内訳は男2人、女1人。というわけで、男女の骨の判別が作品のポイントになってます。


『遺骨』

司法人類学者の会合に参加するため、ジュリー同伴でオレゴンへ向かったギデオン。初日には、10年前バス事故で亡くなり、歯科カルテで照合された司法人類学界の長老の遺骨が、博物館の常設展示として一行に披露された。しかし、翌日には遺骨は盗まれ、一行が滞在していたコテージ近くの納屋の跡からは白骨死体が発見された・・・

発見された白骨死体を使ってギデオンが復顔法の実演をするため、プロセスが詳しく説明されるのがなかなか興味深いところ。身元は明らかだと思われていた死体は実は・・・ということで、謎が謎を呼ぶ展開は今回も健在。法医学の専門知識を駆使したアリバイトリックもさすがです。


『死者の心臓』

エジプト学研究所の宣伝用ビデオにナレーターとして出演する、という仕事をしぶしぶ引き受けたギデオン。そのころ、当のホライズン・ハウスでは、使わなくなった物置き場から謎の人骨が発見されていた。撮影が始まってまもなく、一行の乗ったナイル川を進む船で、研究所の所長が謎の転落死をする・・・

今回の舞台はエジプト。興味のある場所ではありますが、旅行するのはなかなか大変そうですね(笑)。
研究所の物置き場から発見された謎の人骨を第五王朝期のテーベ人の書記、と推理するギデオンでしたが・・・。古い骨と新しい骨を識別するくだりもなかなか面白いです。

象眼の件だけちょっと、十分に納得のいく説明じゃないような気がしないでもないですが。


『楽園の骨』

伯父の娘婿の死の謎を調べて欲しい、というジョンの依頼でタヒチへ向かったギデオン。ジョンの伯父が経営するコーヒー園では最近相次いで不審な出来事が起きており、親族の事故死にも不審な点があるかもしれないというのだ。しかし、2人を迎えた伯父ニックの様子には、どこか釈然としない点があった・・・

ハワイから溶岩のかけらを持ち去ると女神ペレの呪いがかかるという話が広まったおかげで、公園の 事務所には拾ったものを送り返す小包がひっきりなしにやってくる・・・という冒頭のエピソードがなんとも面白かったです(笑)。コーヒー党にはコーヒーの製造工程も興味深いところかもしれません。 あいにくと私は、飲むとてきめんに気分が悪くなってしまうため、コーヒーは飲めないのですが。


『洞窟の骨』

フランス・ドルドーニュの旧石器時代の遺跡から人間の骨が発見された。しかし、それは明らかに現代になってから埋められたものだった。研究休暇中で、本の執筆のため以前に先史文化研究所で起きた捏造事件を調べにドルドーニュへ赴く予定だったギデオンは、捜査を担当することになった旧知のジョリ警部に骨の鑑定を頼まれる。旅行プランを変更してフランスに向かったギデオンとジュリーだったが・・・

『古い骨』のジョリ警部が再び登場。今度もなかなかいい味を出してます。
舞台となるレゼジーの町はクロマニヨン人が初めて発見された、先史時代の遺跡の多く残る場所。というわけで本書での主要なモチーフとなっているのは“タヤックの老人”と呼ばれる捏造事件です。 ネアンデルタール(人)が芸術品を作っていた証拠と思われた、穴を開けられた骨が、実は捏造されたものと分かったのですが、誰が何のために、という謎は解決されずじまい、というもの。もちろんこの事件の謎を解くことが真相につながるのですが・・・。ネアンデルタール(人)の精神性については、登場人物の大半が研究者ということで侃々諤々の議論の場面もあり、なかなか興味深かったです。


『水底の骨』

十年前に失踪したハワイの牧場主の遺骨が、飛行機とともに海中から発見された。ジョンの誘いで牧場に滞在中だったギデオンは、一族の依頼で遺骨の調査に向かう。しかし、見つかった遺骨には奇妙な点があった・・・

前作の『骨の島』、解説で『古い骨』の焼き直しと評されていましたが、本作の方がさらにまんま『古い骨』じゃんという印象です。おなじみのキャラクターは十分楽しめるし、手堅く面白いんですけどねえ・・・。


『骨の城』 

イギリスはシリー諸島のセント・メアリーズ島。この島の古城で開かれる環境シンポジウムにジュリーが招かれたため、同行したギデオンは、近くの博物館が所有していた骨を調べることになった。だがその中の一つの骨は死後数年しか経過しておらず、しかもノコギリで切断されていた・・・

安定感抜群ながら、このシリーズ、むしろトラベルミステリーとして読むべきかと思わないでもないこの頃。今回の読みどころは遺体探知犬テスの活躍ぶりですね。舞台がイギリスとあって、『断崖の骨』に登場したウィルソン・メリルが再び登場。相当久しぶりなので、思い出すのに結構かかってしまいました。
“《フィガロの結婚》のケルビーノのアリア”なんてところに思わず反応するようになってしまった私(口ずさめるんだから、「恋とはどんなものかしら」の方ですね)。


『密林の骨』 

友人フィルの誘いで、アマゾン河クルーズに参加したギデオンとジョン。同乗するのは民族植物学研究者の一行だが、主催する教授は他のメンバーから各々の理由で恨まれていて、なにやら不穏な雰囲気が漂っていた。やがて、岸の方から槍が飛んできて、教授のそばに突き刺さるという事件が起きた・・・

原題は「小さな小さな歯」。死んだ生物の肉をたちまち平らげるピラニアの歯、のこと。というわけで今回ギデオンが鑑定するのは、ピラニアがきれいにした骨。このピラニア、夕食のメイン料理にも登場してました。
アマゾンの情緒は楽しめたものの、いくらフィクションといっても、この設定はいささか・・・と思わないでもないですが。


『原始の骨』 

5年前にジブラルタルでネアンデルタール人と現生人類の混血を示唆する骨が見つかった。当時人骨の鑑定をしたギデオンは記念行事に招かれる。だが、彼の身の回りで不審な出来事が続き、さらには発見に貢献した富豪が自宅で焼死した・・・

『洞窟の骨』に続いてネアンデルタール人のトピック。こういうネタだと、割と結末が予想しやすいのがナンですね。それはおいても、犯人の性格に、かなりの無理を感じましたです・・・。
今回事件の捜査をするソトメイヤー警部、「サン・マロで開かれた国際科学捜査シンポジウム」以来のつきあいだそうで、それって『古い骨』の事件の時かしら。そして次作のタイトル、まんま「偽装掘削」(ラストで編集者がギデオンに執筆を依頼した本の仮題)なんですね〜。
ギデオンの携帯電話の着メロは『椿姫』の序曲なんですね。あの“物悲しい”曲なんですか・・・

シリーズ作品リスト        ミステリアス・プレス/ハヤカワ・ミステリ文庫
 
Fellowship of Fear
 
1982
『暗い森』
The Dark Place
訳:青木久恵
1983
『断崖の骨』
Murder in the Queen's Arms
訳:青木久恵
1985
『古い骨』
Old Bones
訳:青木久恵
1987
『呪い!』
Curses!
訳:青木久恵
1989
『氷の眠り』
Icy Clutches
訳:嵯峨静江
1990
『遺骨』
Make No Bones
訳:青木久恵
1991
『死者の心臓』
Dead Men's Hearts
訳:青木久恵
1994
『楽園の骨』
Twenty Blue Devils
訳:青木久恵
1997
『洞窟の骨』
Skelton Dance
訳:嵯峨静江
1999
『骨の島』
Good Blood
訳:青木久惠
2003
『水底の骨』
Where There's a Will
訳:嵯峨静江
2005
『骨の城』
Unnatural Selection
訳:嵯峨静江
2006
『密林の骨』
Little Tiny Teeth
訳:青木久惠
2007
『原始の骨』
Uneasy Relations
訳:嵯峨静江
2008

Skull Duggery

2009

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ロビン・ハサウェイ   Robin Hathaway
『フェニモア先生、墓を掘る』

小さな診療所を営む心臓医フェニモアは、死んだ猫を埋める場所がなくて困っている少年ホレイショと知り合った。同情した彼はアメリカ先住民ラナピ族の墓地だった場所を教え、埋葬を手伝った。ところが彼らの掘った穴からは若い女性の死体が見つかる。友人の警察官の到着を待つ間にフェニモアはシャベルの一撃を喰い、また、女性の遺体は伝統様式で埋められていたにしてはどことなく妙だった。私立探偵が副業のフェニモアは調査に乗り出すが・・・

さすがにお医者様が主人公なだけあり、心臓に関する専門知識が結構出てくるのですが、主役のフェニモア先生のキャラクターのせいもあって、なんだかほのぼのと読めてしまいました。
猫がとりもつ縁で診療所でアルバイトを始めるホレイショは、ちょっとツッパリ少年の雰囲気もあり、夜の病院に侵入するフェニモアを絶妙にアシスト(笑)。看護婦兼秘書のドイル夫人はなんだかベーカー街のハドソン夫人を思わせるし、父親と本屋を営む恋人ジェニファーは参考文献をフェニモアに差し入れ。飼い猫サールまで侵入者撃退に一役買って、まわりを固めるメンバーもそれぞれ生き生きと魅力的。
被害者の女性はネイティブアメリカンなのですが、調査が進むにつれて浮かび上がってくる彼女というのが、これまた好感の持てる人物像なのです。フェニモアならずとも“生きてぴんぴんしている彼女を彼のもとに帰してやれるものなら”と思ってしまうところがなんとも切ない。
それでも、ドイルとホレイショの間にトラブルを引き起こしたフェニモアの寝室用スリッパが、最後に意外な再登場をするところなど楽しくて、すっきりとした読後感でした。


『フェニモア先生、人形を診る』

フェニモアの昔からの患者であるパンコースト姉妹の家には有名なドールハウスがある。実物の屋敷そっくりにつくられていて、一族の一人一人に似せた人形まであるのだ。一族が集まった感謝祭の日、ドールハウスが荒らされ、直後に姪のパメラが人形とそっくり同じ姿勢で死んでいるのが見つかった。不審を抱いた姉のエミリーから連絡を受けたフェニモアはさっそく捜査にのりだすが・・・

クリスティの『そして誰もいなくなった』、読んだことないんですが、そっくりの状況で起きる事件だそうです。ベアトリクス・ポターの『2ひきのわるいねずみのおはなし』の引用もありますが。一応犯人当ての挑戦などもあったりして。
貧乏性の性格のため(苦笑)、個人的にはあんまり後味がよくないなあ、という感想です。カラテの達人であることが判明したドイル夫人がフェニモアの地下室でカラテ教室を開いたり、ホレイショ少年がまたいい味出してたり、とおなじみのメンバーを楽しむことはできますが。
それはともかく、最後に明かされる犯人の動機を知って、不謹慎ですが吹きそうになってしまいました。昨今の状況を考えると、少なくとも日本に関してはこんな心配しなくてもいいんじゃないかと思ったりするんですが、比較の問題なのかしら。
もひとつ疑問。ホレイショって6番目の子どもで、聖人の名前が種切れになってつけられた名前じゃなかったでしたっけ? なんでお姉さんやお兄さんがじゃなくて弟や妹しかいないの?


『フェニモア先生、宝に出くわす』

亡くなった女性患者から遺言で土地と宝の地図を贈られたフェニモア。自分の土地を一目見ようとホレイショ少年をおともにサウス・ジャージーに出かけた彼は、道中古なじみの患者であるアシュリー夫人のもとへ立ち寄った。そこで彼は、夫人が先祖代々の地所を売れという悪質な脅迫を受けていることを知る。彼女の身を案じた彼は、早速調査に乗り出すが・・・

霧の立ちこめる湿地帯を複雑に蛇行する川は、かつて海賊の絶好の隠れ場所だったとか。というわけで、今回は海賊の宝探しの趣。暗号を解いて“お宝”を見つける場面なんてのも出てきます。キャプテン・キッドはポーの『黄金虫』に出てきたので知ってましたが、〈黒ひげ〉は初めて聞きました。
今回はドイル夫人大活躍! 孫娘スーザンの“事故”の後、ボディガードとしてアシュリー夫人の屋敷に住み込むのですが、屋敷にはテレビがなく、お気に入りのテレビ番組が見られない! 我慢できずに容疑者の一人の家でテレビを見せてもらい、ついでに聞き込みもしてきたりして・・・(笑)。 謎のコテージを偵察に行って狙撃されたり、そのコテージに監禁されてフーディニそこのけの縄抜けをやってそこから脱出したり。スリリングな脱出劇なんですけど、体重があと十ポンド軽かったら! と思っていたのが、途中であと十ポンド体重があれば、になり、最後でもう十ポンド軽くなかったことを守護聖人に感謝、となるあたりなどいかにもこのシリーズでなんとも楽しいです。
ギャングの抗争に巻き込まれて負傷、静養を兼ねて屋敷にやってくるホレイショ。“甥”にしてくれといわれてドイル夫人は内心複雑、微妙な関係も健在です。街中育ちのホレイショ、フクロウの声にびっくりしてドイル夫人に助けを求めてしまい、翌朝ばつの悪さに自転車ですっ飛び出してしまうところがまたかわいい(笑)。

1ヶ所気になったところ。スコッティとゼルダってのはフィッツジェラルド夫妻の名前で、『華麗なるギャッツビー』の登場人物はジェイとかデイジーじゃなかったっけ? 気のいい密売人と言われれば確かにギャッツビーが頭に浮かびますけど。

シリーズ作品リスト        訳者:坂口 玲子 ハヤカワ・ミステリ文庫
『フェニモア先生、墓を掘る』
The Doctor Digs A Grave
1998
『フェニモア先生、人形を診る』
The Doctor Makes A Dollhouse Call
2000
『フェニモア先生、宝に出くわす』
The Doctor and The Dead Man's Chest
2001
 
The Doctor Dines in Prague
2002

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海堂 尊   Kaidou Takeru
『チーム・バチスタの栄光』

東城大学医学部付属病院では、アメリカより心臓移植の権威・桐生恭一を助教授に招聘、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム“チーム・バチスタ”を作り、成功率100%を誇ってきた。ところがここへきて三例続けて術中死が発生。次の手術予定は、海外から受け入れた少年ゲリラ兵士が患者で、マスコミの注目を集めている。高階病院長が内部調査を命じたのは、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口公平だった・・・

国内ミステリで久々のヒット! これだけ一気に読めるミステリ、なかなか無いですよ〜。
なんと言っても登場人物の描き分けが抜群。出世競争からさっさと降りて、「愚痴外来」と揶揄されるような部門を担当している田口だけれど、変に屈折してるわけでも、医者としての使命感を欠いてるわけでもなくて、自然体なところがなんとも好感度大。田口の調査が一通り済んだところに登場するのが厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔。この人がまあ、これでもお役人ですかという強烈キャラで、相手を怒らせるわ泣かせるわ、読んでるこっちまで冷や冷やしちゃう殴り込み聴取。でも、聞く側のスタンスがこれだけ違うと、同じ人間を相手にしてもやっぱり出てくる結果は違ってくるわけで。この対比、なかなか面白かったです。主役級だけでなく端役の一人一人に到るまで存在感があって、おみごととしかいいようがないです。
作者は現役のお医者さんだそうで、大学病院の現実や手術場面のリアリティ、ディテールの書き込みがさすが。個人的なことをいえば、ちゃんと現場を分かって書いてるのよね、という安心感が保証されてなかったら、到底素直に楽しめるストーリーじゃなかったと思います・・・(苦笑)。しかし1年間に新作3つって、一体いつ書いてるんですか〜。
うーん、この展開なら動機はあの系統しかないよねえ、と思ってたら、やっぱり読み通り。こういう動機、好きじゃないんですけど、結構さわやかな読後感にもってったうまさに敬意を表して、まあ良しとします。

しかし、映画では田口医師、女の設定なんですか・・・。藤原さんとの関係、どうするのかしら。女同士にすると、ずいぶん違っちゃうような気がするのですけど。出世に興味がないという設定だって、男だから生きるのですし。

シリーズ作品リスト        宝島社
『チーム・バチスタの栄光』
2006
『ナイチンゲールの沈黙』
2006
『螺鈿迷宮』
2006
『ジェネラル・ルージュの凱旋』
2007

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