何か苦手、と思っていた「魔笛」を存外あっさりクリアできたのに気をよくし、四大オペラで一つ残った「コジ」にも挑戦してみることにしました。恋人交換という筋が全く興味をそそらなかったのですけど、重唱満載の音楽くらいは堪能できるかな、と。というわけで、選んだのはもちろん
ガーディナー指揮のシャトレ座公演(1992年)。ライブラリーでLD鑑賞しようかと思っていたところ、ご厚意でTV録画をいただけてしまいました。
なりゆきでそうなったわけですけど、これが最後だったのは大正解、まだオペラをろくろく見慣れないうちに見てたら、さぞや退屈しただろうと思います(笑)。ドンジョやフィガロに比べるとストーリーの起伏が少ないというか、半分くらいが内面独白のアリアじゃない? って感じなので。でもキャストがみんな役にはまってて見た目に違和感が無く、この声苦手っていうのも無かったので、声の饗宴という感じで最後まで楽しめました。
男3人は客席から登場。フェランドとグリエルモは全く同じ真っ白な衣装。フィオルディリージとドラベッラも全く同じ衣装で登場です。あれ、2人ともソプラノ? と思ったら、初演の歌手二人は同じ声域で同じタイプだったそうな。なんだか左右対称という感じの舞台でした。しかし、大きさが違うので遠目にも区別がつくフェランドとグリエルモと違って、姉妹は大きさも同じくらいなので、どっちの相手がどっちだったっけ? と時々こんぐらがりました。なにせ最初は、変装したグリエルモがフィオルディリージにちょっかいかけて、平手打ち喰らったりしてますので・・・
(フィオルディリージのアリアの途中)。
しかし、ガーディナー指揮のモーツァルトオペラを見ていて、いつもながらすごいなあと思うのは、演奏と歌唱だけでも素晴らしいのに、よくまあこれだけ視覚的にも役にどんぴしゃりな歌手を揃えてきたなあということ。ドンジョなんかは少々難ありという気もしますが、この「コジ」なんか完璧じゃないでしょうか。
アマンダ・ルークロフトのフィオルディリージ。可愛かったです〜♪ 困っちゃったわって表情がどんぴしゃり、とってもチャーミングでした。
2つめは非常に難しいアリアなんだそうですが、やっとこさ歌ってるという感じはしなかったです。
ローザ・マニオンのドラベッラ、この役って奔放ってイメージがありますけど、流されるタイプのドラベッラでしたね。
フェランド役の
ライナー・トロストも素敵でした♪。シャーデ(「魔笛」のタミーノ)ほど“うわあいい声”とは思わないのですが、この人の歌、どうも聴いててトキメクのです(
「愛しき人の愛のそよ風」)。これならフィオルディリージでなくても落っこちますわ。モーツァルト・テノールって結構聴けるじゃない、などと思って、そういえば私をこの道に引きずり込んだボストリッジはモーツァルトを歌うテノールだった! と再認識した次第(笑)。
お目当てで聴くには一番美味しくないのがグリエルモかしら。あのさあ、それ問題のすりかえって言わない? ってアリア聴いてて思いました(苦笑)。客席に降りて歌うのが面白くはありましたが。とはいえ、ドラベッラをくどくシーンはやっぱりラブシーンの上手なバリトンにやってもらいたいもので、ここはさすがに
ギルフリー、でした(笑)。
素晴らしかったのはデスピーナの
エイリアン・ジェイムズ。この人、同じガーディナー指揮で「ドン・ジョヴァンニ」のツェルリーナを歌ってるんですが、そっちではあんまりぴんとこなかったんですね。でも、このデスピーナは歌も演技も元気いっぱいで見ててとっても楽しかったです(
「男に、兵隊に」)。迫力があってなおかつ澄んだ声にも聞き惚れました。そら、しがない勤め人としては、有閑マドモワゼル2人より、彼女の方がなんぼか感情移入できますし、てのもあるんだと思いますが(苦笑)。
「コジ」って全体の印象を左右するのはデスピーナとドン・アルフォンソですね〜。この2人がつまらないと間違いなくコケると思いました。なんとなく、カップル2組は、とりあえず役にはまってて声が良ければ正直誰が歌ってもいいような・・・(笑)。といいつつ、ドン・アルフォンソの
クラウディオ・ニコライ、それほど強烈な印象はなかったのですが、悪くはなかったと思います。
この舞台、演出もガーディナーなんだそうです。いろいろ異論もあるようですし、確かに演出の冴えみたいなものはあんまり感じられなかったような気もしますが、オーソドックスな演出としては悪くはないんじゃないかと思います。オペラ初めてでこれ見たらさぞかし退屈しただろうなあ、と思わせるストーリーながら、あくびもよそ見もせずに安心して最後まで見てられましたし。良くできた現代風演出なら面白そうですが、目を白黒、勘弁して〜って演出にあたる確率の方が高そうですよねえ・・・(苦笑)。
さて、これまた困ったもんで、DVDでは日本語字幕付きがありません。2枚組なせいで輸入盤の割にいいお値段だし。いい音で聴く目的だけならCDでもいいかなあ・・・とも思ってましたが、安くなってたのを見つけたので買ってしまいました。
ちなみに、YouTubeを見てたら
こんな映像をみつけました。1996年のガルニエ宮公演。あら、シャトレ座のと似た雰囲気、と思ってよくよく見たら、フェランドとデスピーナはキャストまで一緒
(トロストのフェランドは1997年のロイヤルオペラの映像もありました。なるほどはまり役ですもんね)。これまた大きさまでよく似た姉妹ですが、こちらは男2人まで同じ大きさ(演出でなんとかカバーしてますが、女性陣のが背が高いですな)。さらに対称形の舞台になってます。割といろんなシーンがアップされていて、なかなか楽しめました。
シャトレ座と違うな、と思ったのはまずドン・アルフォンソ。ニコライのアルフォンソがなんだか飄々としていたのに対して、ウィリアム・シメルのアルフォンソはかなり重量級。だいぶ印象が違います。
グリエルモも、うん、キーンリーサイド、クールでいいですね。アナタほんとにフェランドのこと親友だと思ってる〜? って言いたくなるような演技が面白かったです。
例のアリアでも、シャトレ座のギルフリーだと、ばつの悪さを問題のすりかえにもってったって感じですが、このサイモン、傷心のフェランドにさらに追い打ちをかけるがごとくグサグサいじめてます(笑)。どうも評判の割にぴんとこない人だったのですが、これは格好いいと思いました。オネーギンとかやったらさぞ似合うだろうなあ。
ところで、ご贔屓ブッフォのアントニオッツィ、今はもっぱらドン・アルフォンソ役ですが、グリエルモも歌ったことがあるそうです。一応すらっと長身でまあまあハンサムの彼、まあ合わないこともないか、と思いつつ、ラブシーンが想像できない・・・なんて思ってたんですが。小学館の「魅惑のオペラ」シリーズのコジを本屋で見かけて、思わず目が点になりました。1989年のスカラ座公演、ひええ、コルベッリがグリエルモ!
・・・グリエルモって2枚目路線系と3枚目路線系があるんでしょうか? 「オレのがハンサムだし〜」ってセリフの言わせ方も違ってきますわね〜。
さて、メルビッシュの「チャールダーシュの女王」のBoni役がすっかりお気に入りになったマルクス・ヴェルバ。そもそもこの人に興味を持つきっかけになったのがサントリーホールの「フィガロの結婚」だったわけですが、ホールオペラのダ・ポンテ3部作すべてにキャスティングされていて、最後が「コジ・ファン・トゥッテ」。さすがに「ドン・ジョヴァンニ」を見に上京しようという気にはなりませんが、ダ・ポンテ3部作なら「コジ」のグリエルモが一番ぴったりでしょってことで、3月の三連休、
サントリーホールまで見に行くことに決めてしまいました。
フィオルディリージ:セレーナ・ファルノッキア
ドラベッラ:ニーノ・スルグラーゼ
グリエルモ:マルクス・ヴェルバ
フェルランド:フランチェスコ・デムーロ
デスピーナ:ダヴィニア・ロドリゲス
ドン・アルフォンソ:エンツォ・カプアノ
指揮&フォルテピアノ:ニコラ・ルイゾッティ
演出:ガブリエーレ・ラヴィア
「ドン・ジョヴァンニ」と「魔笛」で一番お気に入りの演奏がセミステージ形式なので、この上演形態で見られるのも楽しみにしていました。しかし、どの席から見たら舞台が見やすいのかさっぱり見当がつかず、とりあえず舞台には近かろうということで2階のサイドの席をとりました。席についてみると、ちょうど舞台の真横。その後ろ、オルガンの方にオーケストラのスペースがあって、指揮者はオルガンを背にして立ち、オケは客席に背を向けている格好になります。客席側のあちこちにモニターが設置されていて、歌手はそれを見ながら歌うんですね。そういうわけなので、音響的にはどうなのか分かりませんが、序曲の間は指揮もよく見えました。さすがに舞台が始まっちゃうと、両方は見てられませんでしたが・・・。
ステージには、ただ床があるだけで、上手と下手に黒子の絵のついた鏡のようなもの。ここが扉になっていて、序曲の途中あたりから、この黒子の格好をした人たちが白い籐の家具を運び込んできます(ロココ時代に流行した中国風の家具なんだそう)。鷲鼻が特徴的な黒子たち、これまたプログラムによると、イタリアの即興演劇コンメディア・デッラルテに登場するナポリの伝統的な道化役のプルチネッラを模しているんだそうな。場面転換は、この黒子たちが家具調度の入れ替えをすることで行う趣向。
初めに運びこまれたのはたくさんのテーブルと椅子。白い衣装のプルチネッラもたくさん登場して、舞台はどこかのカフェ風に。そしてこの黒子白子たち、単なる舞台の遠景というわけでもなく、ドラマを見物する観客のように、登場人物たちを取り巻いては、ストップモーションでいろいろ反応するんです。これがこの演出の一番の特徴で、なかなか面白かったのですが、なにせ人数が多いので、上から見てると、ちょっと煩いかな、と思ったところもありました。
セットの配置、登場人物の立ち位置など、かなり左右対称を強調した舞台でした。その演出で慣れていたので、特に気にはなりませんでしたけれども。
あと、サイドで見てると致命的だったのは、衝立(?)の影になって全く見えない(!)箇所があったところですね、おおむねは間近で見れて楽しかったのですが。
ラストは、2回、3回と相手をシャッフルするので、ん、どっちかな? と思ったのですが、最終的に元の鞘に戻ってカーテンコールでした。
私にとっては極端に演奏を選ぶモーツァルトなのですが、アンサンブルも上々で、なかなか楽しめました。実演で見ている分にはあまり気にならない・・・という可能性もありますが、どなたかが書いていらしたように「音楽がウキウキしてエネルギーと若さに満ち」た演奏だったんじゃないかと思います。序曲ではモダンオケの音ってこんな感じなのか、なんてことを考えてたりもしてましたけど。
いろいろ忙しくて、事前に一度も通しでさらえなかったし、寝不足が重なって鑑賞するコンディションは上々とは言い難く、途中、あれ、今、記憶とんだ? って箇所もあったんですが・・・
一昨年、昨年に続いて、レチタティーヴォ・セッコはルイゾッティが自ら弾いてました。どこの場面だったか忘れましたが、黒子たちが調度品の入れ替えやってるところで弾いてたのが「La Danza」。それってロッシーニじゃ(笑)。ちなみに、結婚式の話が出るところではチェンバロのパートがメンデルスゾーンの結婚行進曲弾いてたそうなんですが、そっちは記憶にありません・・・
舞台が始まる前にオーケストラを見ていて、なんで鍵盤楽器が2台もあるんだろう、と思ったのですが(演奏中は忘れてました)、あとでプログラムを読んだら、男たちの会話はルイゾッティのフォルテピアノなのですが、女たちの会話は弦楽器ティオルバとチェンバロで伴奏していたんだそうです。
・・・とまあ、上演前にしっかりプログラム読んでおくべきでした・・・ってところもいろいろ。NHKさん、これも放映してくれるんですよね・・・?
キャストでピカ一で良かったのはデスピーナ役の
ロドリゲス。よく通るシャープでクリアな声で、コメディエンヌとしても抜群。個人的に、一番要求が高いのがこの役なので、これが良かっただけでも見に行った甲斐があったってものでした♪ 一番拍手ももらっていたと思います。
フィオルディリージ役の
ファルノッキア、ちょっとこの役にしては貫禄ありすぎな気もしましたが、フェランドに陥落したときの、「あなたの好きにして」というところがめちゃくちゃ綺麗な音で、しびれました。
ドラベッラ役の
スルグラーゼ、別に悪くもなかったのですが、これといって印象には残りませんでした。この役はロンドンでも歌ってまして、割と評判良かったので、ちょっと期待してたんですけど。
男性陣では、ドン・アルフォンソ役の
カプアノの低音に聞き惚れました。フェランド役の
デムーロもなかなか良かったのですが、私の好みからすると音色が明るすぎでしたね。
お目当てで行ったグリエルモ役の
ヴェルバ。録画を見ている限り、どうもモーツァルトはあんまりぴんとこなかったのですが・・・実演で聴いてもあんまり印象が変わらなかったです。
今回の上演、「恥ずかしがらずに・・・」(
この曲ですね)をカットして、本来この場面で演奏されるはずだった「ちょっとあいつを見てやって・・・」(
プライの音源)というアリアに差し替えています。そりゃあこっちの方がずっと長くて聞き応えがあります。現行版を見てると、歌う分量と印象度でフェランドと差が付きすぎてる感じなのですが(だから“お目当てで聴くには一番美味しくない”と前述したわけですが)、ここ差し替えると随分違います。でも、肝心の歌の方が何だか、わざわざ持ち出すほどでも・・・という印象で。ドラベッラとの二重唱は安定してたように思いますが。でもやっぱりコミカルな演技はとても良くて、毒を飲むふりをするあたりのノリノリぶりなど、随分と楽しませてもらいました。フェランドとフィオルディリージが二人で出かけるところを、ドラベッラをほっぽらかしてストーカーばりに物陰から偵察していたのにもウケました。
終演後、ステージドアにも行ってきました。ただ、楽日だったのでレセプションをやっていて、出てきても1時間後ですよ、と言われ、結局1時間半は待ったのかな(私は中抜けして夕飯に行ってましたが)。そんなわけで、出てきた時に待ってたのは6人だけだけでした。キャスト6人+指揮者で、サインする方の人の方が多い! のに、どうぞ、と言われて中に入ると、サイン会のようにテーブルと椅子が用意してあったんです。係員さんの対応にちょっと感激。おかげで全員にサインをもらえました。ウェルバには「チャールダーシュの女王」のDVDにも。アルフォンソ役のカプアノ氏が“えんつぉ”と日本語でサインしてくれたのが一番のインパクトでした。しかもなぜひらがな・・・。