Opera DVD Collection

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ドニゼッティ  「愛の妙薬」

ネモリーノのアリア「人知れぬ涙」    Midi by ぶれすおーる

デセイのDVDにはまったおかげで、今度はオペラ記事のあるブログも読みに行くようになりまして。あちこち回っているうちにこちらの記事の「愛の妙薬」のビデオクリップが目に止まりました。ただもう単純に、プレスリーの格好で歌うっていうのに、あら面白そう、と思っただけなんですが、このターフェルノリノリコンサート風が期待を裏切らない面白さ。オランダ語字幕なので内容は分からなかったのですけど。
それじゃ他のも、と見てみたら、マチェラータ公演は日本語字幕付きなので、ドゥルカマーラとネモリーノの掛け合いの内容が分かってさらに楽しめるようになり、続くラスパルマス公演でアントニオッツィのちょい悪オヤジ風ドゥルカマーラの面白さに目が釘付けになりました。オーケストラにぴたっと合わせた動きの面白いこと! さらにバルセロナ公演、ビリャソンのコミカルなネモリーノにもノックアウト。多分、ベルカントのオペラを歌うにはあんまり向いてない声なんでしょうが、私は個人的に男声は深みがある声のが好きなので、問題なし(笑)。森雅裕のプリマ・ドンナシリーズの幻の第4作に出てくるオペラがこれなので、話の筋ぐらいは調べたことがありますが、筋だけ読んでるとちっとも面白そうじゃなかったんですよね。へーえ、こんなに面白かったんだ、こんなに面白いもの、どーして今まで誰も教えてくれなかったのよ、と思いましたわ。
しかしまあ、良くしたもので、マチェラータ公演はDVD化されてるんですが、一番気に入った2つはDVD未発売。ビリャソンのネモリーノは同じ年のウィーン公演がすでにDVD化されてるんで、こっちは出してくれないだろうな〜と諦め、そのウィーンのを買ってみることに。

というわけで、記念すべき初めて全曲通して見るオペラとなったのが2002年マチェラータ音楽祭の映像。なにせ初めてなものですから、最初のへんで、トリスタンとイゾルデってそんな話だっけ? とは思いましたが(ストーリーに合わせて変えちゃったんですね)、とっても楽しくて大満足でした。全体的に、なるほどイタリアの舞台だなー、という感じなのが面白かったです。結婚式のさなかに花嫁さんのスカートめくったりしていいのかしら(笑)。野外公演で、舞台の真ん中にオケをのっけた、ちょっと変わった舞台です。オケも一応キャストの扱いで、個人的にはドゥルカマーラが口上をとちるところで、指揮者がセリフを教えるシーンがお気に入り。オーソドックスながらよく練られた演出で、人の動かし方とか見てるだけでも楽しいです。キャストが若手で揃えてあるので、見た目に無理がないのも良し。
序曲が終わって、真っ先に舞台に走り出てくるのがジャンネッタ役のロベルタ・カンツィアン。省いてもあらすじが説明できる程度の脇役なんですが、身のこなしが軽やかで、実に素敵! なかなかの存在感でした。声がちょっと細い感じなのが惜しいですが、これならビジュアル的にアディーナ役も歌えるよね、とブックレットを読んで納得したもんです。
ヒロインのアディーナはヴァレリア・エスポジト。この人がまた、とっても表情豊かでした。演技もはまってましたが、何よりすごいと思ったのが、歌の演技が絶妙なこと。場面場面で歌の表情が全然違うんです。同じネモリーノ相手の歌でも、第1幕で「誠実な愛なんて狂気の沙汰だわ」と歌うときはからかうような調子になり、クライマックス直前の「受け取って」ではしみじみとした歌い方。これがドゥルカマーラとの二重唱になると、なんともいえず可愛い! 演じ方によっては“ヤな女”になりそうな役どころなんですけど、実に素敵なアディーナでした。
ドゥルカマーラ役のエルヴィン・シュロット。“オレ様”っぷりがはまってて、見ていて楽しかったです(笑)。実は美男だセクシーだという評をあちこちで見てて、え? と首をかしげてました。薬の口上からネモリーノとの二重唱までを見てる限り、表情も豊かで演技も達者だけど、“いい男”には見えなかったので。でも、「美しきアディーナ」からのアディーナとの二重唱のところまできて、思いっきり納得しました。なんてセクシー! 話の筋も知らず、字幕も無しでこのシーン見たら、口説く男とかわす女って場面にしか見えない色っぽさ。これはドン・ジョヴァンニが当たり役だってのも分かりますね〜。なんとなく、写真では上手く魅力を切り取れないタイプかな、と思います。「ドン・ジョヴァンニ」って、あまり興味の持てない話だったんですけど、彼がタイトルロールを歌うんなら見てみたいかも、なんて思ってしまったくらい。
ベルコーレ役のマッルッチ。バックステージで衣装を引っかけて喋ってるところを見てびっくりしました。かなり好みの顔なんです(笑)。いやもう、造作の点からいえばシュロットより断然。この役、本来は二枚目の役なんでしょうが、この演出は完全に三の線。というわけで三枚目演技、おみごとでした(笑)。声はもうちょっと低い方が好みなんですが。
ネモリーノ役のアキレス・マチャード。名前と映像と見比べて、最初に思ったのが「名前負けしてない!?」でした(苦笑)。だって、お笑い芸人のいじられキャラというか、そんな風貌なんですもん。単純素朴な農夫という役柄にはぴったりですが、結末にも説得力を持たせるのがやや苦しいかな・・・なんて思いながら見てましたが、なかなか達者な演技で、結構納得してしまいました(笑)。レッジェーロっていうんですか、ベルカントものとしてはこちらが王道って声です(この手の声が好みじゃないのは私の個人的な好みの問題で)。

さてもう一つ、2005年ウィーン公演の映像ですが・・・。
アンナ・ネトレプコのアディーナ、可愛いさは役に合ってるし、歌も悪くはないんですが、先にエスポジトを聴いてしまうと、歌い方がどうにも一本調子に聞こえるんですなあ。結構暗めで太い声なので、アディーナの軽やかさにも欠ける感じ。なんとなくこの人、もっと“情念の女”の役を歌った方が合ってるんじゃないかしらという気がします。あと、これは演出の問題だろうけど、「受け取って」の最後がべったりキスシーンで、いささか目のやり場に困りました。「椿姫」じゃないんだからさ(苦笑)。身長差からいってネトレプコじゃ無理だろうけど、バルセロナの、首に抱きついたバーヨをヴィラソンがぐるぐる回すシーンの方が、私は好きです。
レオ・ヌッチのベルコーレはさすがに芸達者で、声だけ聞いてる分には断然こっちが好みなのですが、いかんせん、ビジュアル的にあまりにもおじさんなのがネトレプコと並べると相当キツイ。ジャンネッタは、「素晴らしい!」からの四重唱がばっさりカットされてるので完全にコーラスに埋没。そんな登場人物いたっけ、くらいの印象。
ダルカンジェロのドゥルカマーラ、悪くはないんですが・・・、もとい、どこが悪いか具体的に指摘できないんですが・・・、正直言っちゃいますと、ここが一番面白くなかった。ちょい悪オヤジ風ドゥルカマーラなら、ラスパルマスのアントニオッツィの方がはるかにいけてたし。年齢的に、ヌッチと逆にした方が良かったんじゃないかしら、などと思ってしまったり。あと、これは指揮者の問題なんでしょうが、早口アリアが妙に重ったるくて、これにも面白みがそがれました。(そのくせ、しっとり聴かせてほしい「人知れぬ涙」あたりのテンポが妙に早かったりするし・・・)
「ラララララ・・・」のところで、リンゴでジャグリングしてくれちゃうビリャソンは好きですが(でもそこでアディーナが拍手してちゃ駄目じゃん、とは思う)、見終わった後の感想は、やっぱりバルセロナ公演を見たかったな〜、でした。ちなみにご本人の公式サイトに行ったら、ステージ写真で2002年のベルリンの、すごい現代演出の「愛の妙薬」があって目を剥きました。唯一発売されてるDVDがこっちじゃなかったことに感謝すべきなんでしょうねえ・・・

なんて感想を書きましたところ、ご厚意でラスパルマスとバルセロナの公演、全曲見せていただいてしまいました\(^o^)/。
バルセロナの公演はファシスト時代のスペインという設定の演出なんだそうですが、レトロな感じがこの話にとってもよく合ってました。お目当てのビリャソン、やっぱり彼のコメディアンぶりはバルセロナ公演のが断然楽しい! 階段手すり付き2階建てのセットなので、演技にいろいろ使えるのが違うんでしょうね。薬を飲んだ後のアディーナとの二重唱のおかしいことといったらないし、ベルコーレ登場後の三重唱の後、子どもに八つ当たりするシーンなんかも傑作。こちらでも「人知れぬ涙」2回歌ってますけど(1回目2回目)、いやもう圧倒的! ネモリーノっていったら、このバルセロナのビリャソンしか考えられない! ってほどはまってました。逆に言うと、他の役をやってるところが想像できないっていうことでもありまして・・・。レパートリー見てて、うん、この役なら見てみたい、というのが思いつきませんでした(「椿姫」のアルフレートとか「ボエーム」のロドルフォくらいならまあ・・・って感じです。どっちも好みの演目ではないですが;苦笑)。ついでに言えば、この人髪はこのくらい短い方がいいですね。凛々しく見える瞬間があったりします(笑)。
マリア・バーヨのアディーナもなかなか可愛らしく、大人っぽいエスポジトとはまた違う、ハイヒールで階段駆け上がっちゃうおてんばぶりがはまってました。どっちかといや一本調子の歌い方でしたが、声は好みのタイプのきれいに澄んだソプラノでなので文句なし(そよ風に聞けばの二重唱)プラティコのドゥルカマーラもさすがの早口が楽しかったです。初めて見たベルコーレはジャン=リュック・シャニョー。若くはないし、結構マッチョなのに最初ちょっとびっくりしましたが、考えてみれば軍人さんですもんね。この年齢で軍曹かい、という点に目をつぶれば(軍の階級には詳しくないんですけど、下の方なんでしょう?)、一番ビジュアル的に違和感のないベルコーレだと思います(やっぱりヌッチがやると不良中年っぽい;笑)。おかげで逆にネモリーノにピストルつきつける場面に違和感がありましたけどね。これだけビリャソンとガタイに差があったら(20スクード!の二重唱)、喉元締め上げるくらいで十分さまになるような気がして。というわけで声もビジュアルもとっても好み、カーテンコールにまで仕掛けがある楽しい演出で、なんでこっちがDVDにならないの、と地団駄踏みたくなるようなすばらしい舞台でした。
追記(2010年3月):てなことをぶつぶつ書いてたのがどなたかのお目にとまった・・・はずはないわけですが、めでたくDVD化。正規版ですから映像は綺麗だし、カタロニア語字幕で観るよりかは英語字幕で観る方が断然楽! 嬉しい限りです。

これまた同年のラスパルマス公演、アディーナの歌が格段に見劣りする感じもあり、フローレスも声はともかく、ネモリーノにしてはただでさえ容貌にハンデがあるんだから(見栄えしすぎって意味です)もう少しコミカルな演技を要求したい感じでしたが、とにもかくにも、アントニオッツィのドゥルカマーラが面白すぎ! 舟歌の二重唱のへんてこな声もおかしかったし、アディーナとトランプをやるドゥルカマーラって・・・(笑)。ただ、薬の口上は少々やりすぎでは。もうちょっと普通に歌ってくださいな、と思ってしまいましたよ(苦笑)。あんまり変てこな扮装はしてないのでビジュアルのよさもしっかり堪能。いつかこの演目でDVDになることがあったら、このくらいのスーツにコートって格好で出てきてくれると、私としては嬉しいです。あと是非とも四重唱もカット無しで。あの“大金持ちになれるぞ!”の勘違い一直線をどう演じてくれるのか楽しみですので(笑)。

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