6月に見た「セビリャの理髪師」同様、きっかけは新聞広告でした。プラハ国民劇場の引越公演で演目は「魔笛」。夏の「ドン・ジョヴァンニ」で、プラハのモーツァルトなら信用してもいいかな〜、なんて思ってたとこですから、正月休みの最後、のんびり金山まで「魔笛」を見に行くのもいいかな、と思ったんです、最初は。ところが、調べてみたら今回の来日公演、「魔笛」と「フィガロの結婚」の二本立てで、予定キャストを眺めてましたら、夏のプラハで記憶に残ったNo.1とNo.2の歌手さんの名前があるじゃないですか! ドンナ・エルヴィラを演じたスボヴォドヴァーが、第一の侍女と伯爵夫人、ツェルリーナを演じたポラチュコヴァーがパパゲーナとバルバリーナ。(ついでにドン・ジョヴァンニが伯爵。さらによくよく見たらDVDの方でレポレッロを演じてたヴェレがバルトロ、オッターヴィオのドレジャルがバジーリオと第一の武士、マゼットのハルヴァーネクがアントーニオと第二の武士、でした。)
夏のプラハのエルヴィラってったら、しっとりと情感たっぷりのエルヴィラという、ある意味アリエナイものをすごい説得力で聴かせてくれた歌手さんです。伯爵夫人なら文句なしにどんぴしゃのはず。是非ともこの役で聴きたい! と思ったのですが、あいにくとこの公演ダブルキャストで、キャスト発表は当日なんですな・・・。ただし、バルバリーナだけは一応シングルキャスト。じゃあ少なくともこの人だけは聴けるかな、ということで大博打決定。一番近くでこの演目をやっているびわ湖ホールまで、またまた遠出することになってしまったんでありました。(金山の「魔笛」は翌日なので、連日はキツイと断念。)しかし「理髪師」「ドン・ジョ」ときて「フィガロ」の生舞台。期せずしてなんか絶妙の順番なんですけど(笑)。
というわけでお次は予習であります。これまた映像がどっさりある演目、これが定番かなあ、とポネル演出の映画版を見るつもりだったんですが、偶然YouTubeで見たガーディナー指揮のドン・ジョヴァンニがえらい気に入ってしまった折り、同じ指揮者のLDがライブラリーで見れるとあって、まずはこちらを選択。
1993年シャトレ座での公演です。背景に影絵のような木々があって、屋敷は衝立だけというシンプルな舞台。こういう、歌手の演技力で勝負! って舞台好きですね〜。キャストに“白い根菜”(©友人A)が揃うとどうしようもなくなる危険性はありますが、この公演はよく揃ったキャストで文句なし。
まず
アリソン・ハグリーのスザンナが最高! 親しみやすくかわいらしい感じの美人さんでスザンナにぴったり。声も軽やかでかわいらしく、演技もくるくるとお茶目でかわいいのなんのって。存在感からいったらこの演目、“スザンナの結婚”なんじゃないでしょうか。
冒頭の二重唱見てて、ターフェル(がフィガロ)なんかにゃ勿体ない、とうっかり思ってしまったワタクシでありました。フィガロが伯爵夫人を口説いてると誤解して
キレるシーン、平手打ちじゃすまなくて、殴りかかるわ蹴りは入れるわ、なのですが、ターフェルとの体格差のせいもあり、これが何とも微笑ましいです。
で、フィガロの
ターフェルですが、わあ若い〜。この人、こういうブッファに出てくると独特の愛嬌で場が和むのがいいですね。ちょいと抜けてるこの役のイメージにぴったり。個人的には
「もう飛ぶまいぞこの蝶々」の場面が好きです。ケルビーノをからかうフィガロ。その隙にスザンナにセクハラする伯爵、ケルビーノご注進、とぼける伯爵、ときてフィガロ、冒頭の繰り返しを今度は伯爵に当てつけるように歌うんです。憤然と立ち上がる伯爵。ここでのおとぼけの表情がとってもはまってて大好き。
ケルビーノは
スティーブン。きかん気の男の子の雰囲気が良く出てて、これまた役にぴったり。
「恋とはどんなものかしら」の緊張しながらの歌い出しがかわいいです。
バルトロはちゃんとフィガロの父親に見えましたし、マルチェッリーナもなんだかお茶目。バジーリオはキャラクター・テノール専門の人だそうですが、これまたさすがの存在感で面白すぎでした。クルツィオもこの人なのですが、なんだかどっちの味方なんだか分からない、人を喰った裁判官殿になってて面白かったです。
子役の使い方も面白かったですねえ。一幕で、
子どもたちが思いっきり伯爵に花束叩き付けてるのには吹いちゃいました。スザンナが伯爵に渡した手紙も伯爵の側にいた女の子がポケットから抜いちゃって。返せっていう伯爵に、首振りながらニコニコしてるのがもう、めちゃくちゃ可愛い〜。
そんなよく揃ったキャストの中、いささか違和感を抱かせたのが伯爵夫妻。
マルティンペルトの伯爵夫人、登場の場面で失礼ながらまじまじとお顔に注目してしまいました。その・・・二重あごに。いささかケルビーノの趣味を疑いたくなりましたが・・・。演技にもお歌にもあまり“威厳”てものが感じられない伯爵夫人でしたが、見てるうちにこちらも慣れたのか、こういう愛嬌のある伯爵夫人てのもありかなという気分に。
しかし最後まで違和感きつかったのが
ギルフリーの伯爵。目つき、怖すぎ! カツラが似合わないのは予想の範疇でしたが、最後まで目が笑わないんですもん。戸を開けろ開けないの言い争いが怖かったの何のって。絶対ほかのとこじゃ奥さんに手あげてるだろ! って感じ。これじゃまるでDV夫ですよ?
唯一のアリアの最後、見得なんか切っちゃうのは笑ってしまいましたが。確かに一応この役、敵役ではありますが・・・。
めまぐるしい展開に音楽がなんとも絶妙にぴったりで、なるほど楽しいオペラなのね♪ と大満足。いやあモーツァルトって天才だわと実感いたしました。音楽もきびきびしててすこぶる好み。ガーディナーのモーツァルト、私の好みに合うようです。
ただ、「セビリャの理髪師」を熱愛してるだけにこの演目になかなか手が出なかった私、最後まで見て、やっぱり切なくなってしまいました。許しの音楽? これが? 聴きながら私の頭に浮かんだのはこのくだりだったんですけど。
「なれない」
返事のしようがなかった。姉は続けた。
「もう違っちゃったのよ、すっかり、こう―――」
右のてのひらと左のてのひらを逆さの方向に動かして見せ、
「ね、駄目なの。そういうこと」
そして黙った。
(北村薫『夜の蝉』)
だって他人行儀に「Contessa(伯爵夫人)」でしょう? 「ロジーナ許してくれ」でも「妻よ許してくれ」でもないでしょう? 二幕で謝る場面じゃ「ロジーナ」って呼んでるのに。というわけで、私にとってはこの曲、何度聴いても“すっかり違っちゃった”曲に聞こえます。“美しい”つうより切ない曲です。
残念ながらこの公演、DVDでは日本語字幕付きがありません。日本語字幕付いてたら即決で買うのに・・・としばらくぐずぐずしてましたが、やっぱり買ってしまいました。でも、LDにはついてるのにと思うと何か悔しいです。私の英語力だと、英語字幕を追っかけるのは結構疲れるんで・・・。
追記:ご厚意でLDからDVDに焼いたものをいただきました。やっぱり日本語字幕付きは楽ですね〜。
この映像で十分大満足だったのですが、当初の予定だった
ポネル演出の映画版にも興味はあったので見てみました。ガーディナーの指揮に比べるとややゆったりめのテンポ。でもちょっとレトロ調の映像にはよく合ってました。フィガロは
ヘルマン・プライ。この人ロッシーニのフィガロも歌ってますけど、独特の愛嬌がフィガロにぴったりですね。伯爵は
フィッシャー=ディースカウ。開けろ開けないの言い争いシーン、あらら、ホントに手あげちゃってますよ。ここまでやっちゃうと謝るシーン、よくもまあぬけぬけと、って印象になっちゃいまして、見ながら思わず笑っちゃいましたが。でもこのくらい甘い方が伯爵としては正解なんだろうと思います。アリアの前にコップ握りつぶしてもDV夫には見えませんし。声はもう少し迫力あった方が好みですけど。伯爵夫人は
キリ・テ・カナワ。しっとりと聴かせてくれてなかなかはまってたと思います。
モンタルソロのバルトロはさすがの面白さでしたし、ケルビーノの
ユーイングも男の子っぽさが出てたかな。
実は一番違和感きつかったのが
フレー二のスザンナ。歌はすばらしいんでしょうが、個人的にはこの役はもう少し軽やかな声が好み。そしてそれ以上に、表情が何か違うというか、溌剌としたかわいらしさに欠けるのが個人的には・・・。冒頭の二重唱、フィガロ一人がはしゃいでて、スザンナはシラっとしてるように見えてしまいました。出ずっぱりのスザンナが好みに合わないと、見てて厳しいですわ、この演目。
ともあれ2008年初のオペラ、珍しくチケット代以下の電車賃で行ってまいりました。マチネだったおかげで、使い残りの青春18きっぷを譲ってもらい、ちょっと早めに家を出て、三井寺見物なども。
びわ湖ホール、ホールの中からもしっかりびわ湖が見渡せるんですね。休憩時間にはしっかり景色も楽しめて、なかなか良かったです。で、ドキドキだった当日発表のキャストはというと・・・
フィガロ:フランティシェク・ザフラドニーチェク
アルマヴィーヴァ伯爵:ロマン・ヤナール
伯爵夫人:イトカ・スヴォボドヴァー
スザンナ:カテジナ・クニェジーコヴァー
ケルビーノ:カテジナ・ヤロフツォヴァー
マルチェッリーナ:エリシュカ・ヴァイソヴァー
バルトロ:ルジェク・ヴェレ
バジーリオ:ヴラディミール・ドレジャル
ドン・クルツィオ:ミロスラフ・ペリカーン
アントーニオ:アレシュ・ヘンドジフ
バルバリーナ:ラトカ・セフノウトコヴァー
指揮:ヤン・ハルペツキー 演出:ヨゼフ・プルーデク
ええ、一番堅いと思っていたバルバリーナが外れというオチで。プログラム(買っちゃいましたよ1500円)にも名前が載ってなかったので、そもそも来日もしなかったみたいです。ちょっと残念ですが、まあ端役のバルバリーナですしね。いつかスザンナで来日してくれることを期待して。席はC席でしたが、正面とはいえ私の視力じゃオペラグラス無しじゃ字幕も読めません。うう、この配役だって分かってたら、も少し良い席買ったのにな、と思いつつ・・・
幕が上がると、なんだかシャトレ座の映像を思わせるシンプルな舞台。セットはなかなか良かったと思います。特に二幕の窓の外、雰囲気があってよかったです。衣装もスザンナはシンプル、伯爵夫人は豪華で素敵。ただ演出はどうも・・・。一応変な読み替えとかはしてないんですが、首をかしげるところが多くて、“鞭打ち”(©
森雅裕『あした、カルメン通りで』)の一歩手前というところ。
一幕の最初から、伯爵の上着が舞台に置いてあるんですが。伯爵が私を狙ってるのよ、というところでなぜスザンナがその服のお袖に手を通す? フィガロは次のアリアでこの服のボタンちぎっちゃうんですが、後で登場する伯爵、普通にこの上着に着替えちゃってて・・・服の異変に気づきませんか? バルトロの復讐のアリアですが、白衣に着替えて何するのさ、と思ったら、助手がビーカーだかフラスコだか出してきて、それをルーペでのぞきながら歌うんですよ・・・歌と一体どんな関連が? 一番違和感強烈だったのが「もう飛ぶまいぞこの蝶々」。使用人仲間らしい男の人がなんかぞろぞろ出てくるなあ、と思ったら、寄ってたかってケルビーノおもちゃ。助けに入るバルバリーナまでおもちゃ。高見の見物で歌うフィガロ。さすがにスザンナは“いいかげんにしてよ!”て感じでしたが・・・。第一ケルビーノ、伯爵夫人のリボン落としちゃってますよ、いつ回収したの?
さて二幕。ケルビーノの着せ替えシーンですが、ここでも伯爵夫人とスザンナにおもちゃにされるケルビーノ。(最近のザルツの映像でのケルビーノの扱いが相当ひどいと聞きますが、ケルビーノをおもちゃにするの流行なんでしょーか。)スザンナが戸から出てきた後、「スザンナ!」と言った後に伯爵夫人昏倒。・・・そういえば「恋とはどんなものかしら」の最後でスザンナも大の字になってたし、この演出家、女の人舞台の上で大の字にさせるの趣味なのかしら。許してくれ、という伯爵を横目に、伯爵夫人とスザンナが仲良くお茶してたのにはちょっと笑えましたが。
三幕。なぜか場面はゴルフ場。格好良くスイングを決める伯爵ですが、池ポチャ(の効果音)。伯爵夫人とスザンナは舞台後方で密談中。伯爵夫人の前じゃ伯爵もスザンナ口説けませんから、スザンナが後ろ手に合図して伯爵夫人退場。この公演、よくある場面の入れ替えは無しで、伯爵のアリア、6重唱、伯爵夫人のアリア、と続きます。これでも別に違和感無いんじゃ、とは思いました。でもね、この演出、グリーンの上で伯爵がアリアを歌い終わったところへ4人組がどやどやとやってくるんですよ。え! 伯爵が裁判に出てない! これって領主裁判権じゃないの? 唐突な親子対面劇もなんかもうちょっと抱き合ってもいいんじゃない? という感じで、これで平手打ち喰わすほどスザンナ怒るかなあ、なんて思ってしまった私。
四幕。落ち葉の上でケルビーノといちゃつくバルバリーナ。なるほどそれでピンを「失くしてしまった」のね、と珍しく納得の展開。しかし、「スザンナに知らせてやろう」というマルチェッリーナのセリフはなし。フィガロがその落ち葉かぶって擬態してたのには笑いましたが・・・。最後のアリアをスザンナが自分の格好のまんまで歌ってたので、衣装取り替えないの?! と本気でびっくりしてしまいましたが・・・さすがにそんなことはなかったですね。最後の場面、伯爵夫人は自分のご衣装で再登場。早変わりの手際に拍手。スザンナのアリアからの展開はまずまずまともでしたが・・・
・・・というわけで、私にとっては、下手なくすぐり考えてるヒマがあったら歌手にしっかり演技つけてよ! って演出でありました。ストーリー自体が十分ドタバタなんだから、歌手の演技力で素直に楽しませてくれる演出のが好みですね。演技に感心する場面てのがほとんどなかったのはちょっと残念でした。ただまあ、演出に首かしげてるうちに終わったバルトロのアリアを除けば、聴かせどころのアリアに変な演出がつくことはなかったのが救いでしょうか。特に後半の伯爵のアリア、伯爵夫人のアリア、フィガロのアリア、スザンナのアリア、舞台の中央で歌手が一人でのびのびと歌ってましたが、聴く方も歌に集中できていいわね、なんて思ってしまいましたよ。
お目当てだった
スボヴォドヴァーの伯爵夫人、二幕のアリアでは調子が今ひとつだったような気がしますが、三幕のアリアは圧倒的! しっとりと情感あふれる期待通りの素晴らしさでした。これを聴くためにわざわざ来た甲斐があったってもんです。
スザンナの
クニェジーコヴァー、すらりと細くて綺麗なスザンナでしたが、声はこの役にしてはちょっと立派なような。並べて聴くと確かにこちらのが軽いんですが、伯爵夫人とちょっと間違えそうになったりして。演技に溌剌さがもっとあったら違和感少なかったかも。まあこっちも慣れてきたんでしょう、最後のアリア、なかなか素晴らしかったです。フライング拍手がちょっと気の毒でした。あと伯爵夫人との手紙の二重唱がもう絶品! こんなの生で聴けるなんて、とこれまた感激ものの素晴らしさでした。
ケルビーノの
ヤロフツォヴァー、「恋とはどんなものかしら」が素晴らしかったです。最初に聞き惚れたのがこの曲でしたね。しかし、演出のせいもあるのか、男の子らしいすばしっこさてのが感じられなくて・・・なんか鈍くさいケルビーノだったです、はい。お写真で見るとなかなかエキゾチックなお顔立ちで、「サムソンとデリラ」のデリラなんか、さぞかし似合ってただろうと思うんですけどね。
伯爵は夏のプラハでドン・ジョヴァンニだった
ロマン・ヤナール。主役で引っ張んなきゃいけないドン・ジョヴァンニはいささか荷が重い感じでしたが、こっちの役の方が合ってるんでしょう、ちょいと間の抜けた伯爵を楽しそうに演じてました。ええ、何か伯爵が一番生き生きしてた印象があります(笑)。声も輪郭がはっきりしてて、低音にも迫力がありますから、唯一のアリアも聴き応え十分でした。
フィガロを演じた
ザフラドニーチェク、なかなかきりっとして男前。これまたちょっと伯爵と似た感じのお声だったんですが、バスなだけあって低音にさらに迫力有り。ありすぎて怖いくらい。ただ、3曲も聴くと、ちょっと一本調子に聞こえるような・・・も少しニュアンスをもって歌ってくれるとさらに良し、です。
やたらちょこまか動き回っていたバジーリオの
ドレジャル、好みの声なんですけど、この役にはちょっと重すぎるのかなという気も。“Cosa Sento”の三重唱、軽やかな声がいないので、えらい重量級に聞こえました。バルバリーナ、一曲だけですがなかなか存在感ありましたね。酔っぱらいっぽさが歌に表現できてたアントーニオもなかなか。あと、ドン・クルツィオの声が独特で印象に残りました。
チームワークの強みを生かしたアンサンブルが売り物だそうですが、それはほんとに確かだなあと実感しました。最後のフィナーレなど本当に素晴らしかったです。合唱にも聞き惚れましたし。ええ、また来日してくれたら行きますので、今度は歌に集中できる普通の演出でよろしくお願いします。
実は正月休みに入ったあたりから風邪気味で、咳と鼻水がとても心配だったのですが、集中して見てると呼吸困難も引っ込むのかしら、上演中は全然気になりませんでした。ただまあ、ほかのお客さんもそうとはいえないわけで・・・この時期のオペラ鑑賞の宿命ですかね。
余談ですが、帰り、大津駅行きの臨時バスを列に並んで待ってたら、後ろを外人さんがぞろぞろ通ってくじゃありませんか。あ、これもしかしてスタッフさん? と思ったので「Nashledanou(さようなら)」って手振ってみたら、「Nashledanou」って返してくれました。わーい、通じた〜! この日一番嬉しかったのがこれだったかもしれません(笑)。
さて、ご贔屓バリトンの
ギルフリーが伯爵を歌ってる映像、
1996年チューリヒ公演のもあります。しかし、絶対パス! だった「ドン・ジョヴァンニ」と同じアーノンクールの指揮でフリムの演出というのでどうも食指が動かず・・・。しかし、エヴァ・メイの伯爵夫人にはちょっと興味があったのと、伯爵の聴き比べはやってみたかったので、友人と上野でランチの後の予定が空いた折り、東京文化会館のライブラリーへ行って、試聴してみることにしました。
一応序曲から聴いてみたのですが、噂に違わぬスローテンポ。我慢できずにとっとと伯爵登場シーンへ。・・・あれ? 格好いいじゃん。はい、チューリヒのドンジョとあんまり変わらない格好、なんですが、この映像では違和感なし。なんでこうも印象が違んでしょうか。うん、3年前と比べると、歌も巧くなってるし、お芝居も自然。シャトレ座の映像では、それが謝ってる態度? なんて思ってしまいましたが、おお、ちゃんと済まなそうな顔できるじゃん!(笑)。シャトレ座の映像の不機嫌伯爵に閉口した身としては、格好いい伯爵が見られるのは大歓迎。伯爵登場シーンを全部視聴して問題ないのを確認、うっかり購入を決めてしまいました(苦笑)。
しかし、“伯爵格好いい〜♪”じゃ、この演目としては間違ってると思うわけで。やはりタイトルロールのフィガロには、伯爵と同等の存在感がほしいのですが・・・
カルロス・ショーソンのフィガロ、どうにも存在感が希薄。おまけに伯爵より頭一つ分小さいもんだから、見た目からして“勝負あった”って感じで・・・。チューリヒの「理髪師」のバルトロかよ! てとこから想像してたほどは老けて見えなかったのですが。これ、演出もその路線なんですかね? 「もう飛ぶまいぞこの蝶々」、途中がぶつ切りなのにもびっくりしましたが、こんなに苦々しい曲にもなるんだ、ってあたりがまたびっくり。何か、アリア終わっての印象が、“殿様には勝てない”って、そんな感じでしたよ。ブックレットによると、アーノンクールが3年前にアムステルダムで録音した「フィガロ」では、タイトルロールはシャリンガーだったそうです。私としてはこっちのフィガロで見たかったなあ。
フィガロと伯爵の背比べ

左:シャトレ座 右:チューリヒ
初めて見た
エヴァ・メイですが、なるほどさすがの存在感、結構プライド高くてキツそうな伯爵夫人でした(笑)。
イザベル・レイのスザンナも、可愛らしくて悪くないと思います。違和感あったのはバルトロとマルチェッリーナ。バルトロは何とも悪役顔だし、マルチェッリーナ若すぎ! 歌も演技も決して悪くないとは思うのですが、へたすりゃスザンナより若く見えそうなマルチェッリーナ、ちょっと勘弁してほしいもんです。
この映像でどうにも居心地悪いのが、やっぱり演奏のテンポです。普通ここもっと早くない? てとこが遅く、ここってもっと遅いんじゃないの? ってとこが超高速。伯爵のアリアも、正直、これが別の指揮者だったらなあ・・・って思っちゃいますし。映像を見ながらであればなんとか耐えられるのですが、音だけ聴こうという気には絶対なれないですね〜。物議をかもしたザルツブルクのグート演出に比べれば、楽しめる舞台だとは思いますが・・・。
アリソン・ハグリーのスザンナは、翌年のグラインドボーン公演の映像もあります。こちらは日本語字幕がついているというので、さっそくどんなもんかYouTubeに試聴に行ったのですが・・・ええ、こっちを先に見てたら、なんて可愛いスザンナ! て思ったと思います。でも、シャトレ座の方がはるかにはつらつとしてるような印象なんですね。舞台もオーソドックスなんですけど、まともすぎて面白くないような・・・。小学館が「魅惑のオペラ」っつう初心者向けシリーズを出してるんですが、「フィガロ」はこのグラインドボーン公演です。シャトレ座の方にして日本語字幕つけてくれればよかったのに、と一瞬思ってしまった私でありました(苦笑)。
・・・と思っていたのですが、アムステルダムの「魔笛」でジェラルド・フィンリーのパパゲーノが素晴らしかったので、俄然フィンリーがフィガロのこの公演にも興味がわいてきました。これまたあんまりフィガロっぽくもないような気がするんですが(笑)、機会があれば見てみたいと思います。実は伯爵夫人のフレミングの声があんまり好きじゃなかったりするんですけど。
フィンリーが出ている「フィガロ」といえば、2006年のロイヤル・オペラのDVDもあります。フィンリーが伯爵、シュロットがフィガロ。(あと知ってるのは伯爵夫人のレシュマンだけかな・・・と思いながらキャスト見てたら、クルツィオがエジャートン。シャトレ座のバジーリオ/クルツィオなんですね。またあの人を喰ったクルツィオなんでしょうか。)これなら伯爵とフィガロでいい勝負が期待できそうじゃないですか。というわけでこちらにも目をつけていたのですが、YouTubeで冒頭の二重唱を試聴して・・・ちょっと引きました。ペルションのスザンナの声がすっごい苦手・・・。このハスキー声をですっぱりのスザンナで聴くのはちょっと辛いなあ。