演目によってはオペラって楽しめるのね、と気付いてしまえば、今度は生舞台というやつを見てみたくなるもの。ちょうど良く目に入ってきた新聞の広告がスポレート歌劇場の「セビリアの理髪師」で、ラブコメなら楽しいに違いない、と行くことに決めました。その時は穏当に名古屋公演に行くつもりでした。日曜日だし。ところが、待てど暮らせど音楽祭のサイトにはキャストが発表されず、芸術文化センターのサイトに載っているのを発見した時には、もう一番安い席は売り切れ。お目当てのいない公演に高額のチケット代を出す気になれず、どこか近場で同じ公演やってたりしないかしら、と探しに行ってびっくり。翌日の浜松公演の伯爵は
シラグーザじゃないですか! 私のようなにわか勉強の半可通でも、フローレスと並んで最後の大アリアが歌える歌手ってことくらいは知ってます。そりゃあ是非ともこっちで聴きたい。しかし問題は月曜日だということで・・・。いくらアクトシティが駅前とはいえ、終業後じゃ間に合わないし(時間休とらなきゃいけないし)帰りはぎりぎり午前様。週の初っぱなからそんな強行スケジュール組んで大丈夫かしら、とかなり悩みましたが、結局こちらでチケットとってしまいました。東京公演まで足を伸ばせばガナッシのロジーナが聴けたわけですが、ボストリッジが来日しない今年は、交通費散財するのはオペラシティにしか来ないデセイに、と決めてたので・・・。
というわけで予習用(笑)に購入したのが
2005年マドリッド公演のDVDでした。フィガロの
スパニョーリだけはお初にお目に掛かりますが、その他の主要キャスト、
フローレス、プラティコ、バーヨ、ライモンディ、みなさま顔と声を知ってるし、フローレスの大アリアが聴けるというあたりが決め手。(しかし日本版お値段バカ高いのに、イタリア語字幕が入ってないというサービスの悪さ・・・)
一通り見終わりまして、いっとうびっくりしたのが
バーヨのロジーナでした。先に書いたバルセロナのアディーナがとっても気に入ったので、おてんばロジーナもさぞや、と期待したのですが・・・これ、同一人物!? この人のビジュアル的欠点は、頑張って声出してます! という顔になってしまうとこだと思うんですが、この公演ではメイクと髪型がそれを上回る違和感(この髪型、スポレートのバルトロと一緒ですよ〜)。可愛いロジーナに見えなかったのが、個人的にはかなり致命的でした(苦笑)。あと、上手に歌ってるとは思うんですが、いまいち迫力を欠く感じ。最後のソプラノ用のアリアはさすがの本領発揮だったので、やっぱりロジーナってメゾの役なんだな〜、と変なところで納得してしまいました。
基本的には伝統演出ですが、最初は白黒の舞台が最後にはド派手にカラフルになるという趣向で、場面転換なども舞台の上でやってしまう、なかなか面白い演出でしたが・・・白状すると、具体的にどこがどうと説明はできないんだけど、なんか馴染めないなあという印象で・・・。
フローレスの酔っぱらい演技とか、「ドン・バジリオ!」の五重唱で飛び跳ねる
ライモンディとか、部分的に面白い場面もあったのですが。
予習としては、あんまり特定のイメージを刷り込まない方がいいかな、ともう一つ見たのが
1989年メトロポリタン歌劇場公演でした。ライブラリーでLDが見れたので。こちらはメトらしくオーソドックスな舞台。伯爵役は
ロックウェル・ブレイクで、近年例の大アリアを復活させた立役者だとか。なんかクセのある声というか歌い方で、ロッシーニって、明るい声のテノールが歌うんじゃないの? なんて最初は思いましたが、慣れてくるとあら不思議、フローレスよりよっぽど聴きやすいのです。フローレス、華やかでいい声なんですが、どうやら私の耳とはあまり相性が良くないようで・・・。なかなかハンサムですらりと背が高く、舞台映えする格好いい伯爵でビジュアル的にも大満足。(テノールのくせにバリトンのヌッチより背が高い。ターフェルと並んでもチビって感じがしないので、かなりの身長だと思います。
YouTube参照。)マドリッドのラストのフローレス、ショッキングピンクというとんでもない色の上下でしたが、こちらの伯爵も思わず目が点のえらいキンキラ絢爛豪華。どちらもなかなか様になってましたけどね(笑)。大アリアもパワフルで、すこぶる気に入りました。(
こちらでビデオクリップが見れます。)ただ、大アリアの前のレチタティーヴォはカットしない方がいいなあと思いました。やっぱり「もう逆らうのをやめろ」なんだから、少しはバルトロが“逆らって”くれた方が、さあ大アリアだぞ、って気分になれるわけで(この点ではマドリッド公演が◎)。
ロジーナ役は
キャスリーン・バトル。伯爵が一目惚れして追っかけてくるような美人には見えませんでしたが(笑)、演技がいいのか役にはとてもはまってて、ソプラノってことで期待してなかったのもよかったのか、さほど違和感なく聴けました。(でも、裏キャストがフォン・シュターデだったと聞いたときには、メッゾの彼女で聴きたかったなあと思っちゃいましたが。)フィガロ役の
レオ・ヌッチも、やっぱりフィガロはこうでなくちゃ! という当たり役ぶり(
「俺は町の何でも屋」)、バルトロ役の
ダーラも、しょうもないおっさんを好演していて楽しかったし、ベルタまで貫禄十分。
フルラネットのバジーリオも、このくらい迫力ある低音のが個人的には好みだったりして。何でフィオレッロは最初しか出てこないのかな? って謎まで解けちゃって、目にも耳にも実に心地よく、最後まで楽しく見終わることができたのでした。演出の都合でしょうけど、ロジーナがバルコニーから手紙を落とす場面はカットされてました。初めて見た時は取り立てて違和感なかったですけど、慣れてから見ると、あれ、無いの? ですね。
残念ながらこのメト公演、DVDにはなってないのですが、日本語字幕付きのVHSが買えたので、買ってしまいました。DVD化される日(がくるのかどうかはともかく)を気長に待ちたいと思います(日本語字幕がつく保証もないですね、そういえば)。
追記(2010年11月):てなことを書いてたら、めでたくDVD化されました。案の定国内版は出ないようですが・・・
ともあれ、曲が苦手なわけでも、お話が苦手なわけでもないのだとと納得できて、気分良く行ってまいりました、
アクトシティ浜松。メモしてきた当日発表のキャストは以下の通り。
アルマヴィーヴァ伯爵:アントニーノ・シラグーザ
ドン・バルトロ:オマール・モンタナーリ
ロジーナ:マリア・アグレスタ
フィガロ:マッシミリアーノ・フィケーラ
ドン・バジリオ:プラーメン・クンピコフ
フィオレッロ/役人:ジューリオ・ボスケッティ
ベルタ:フェデリーカ・ジャンサンティ
アンブロージオ:イヴァーノ・グランチ
指揮:ヴィート・クレメンテ
演出:ジョルジョ・プレスブルガー
楽しかったです! オペラファンばっかりが見に来てるわけじゃなかっただろうけど(前日に名古屋があっての浜松ですしね〜。制服姿の高校生なんかも割と見かけたし)、結構客席から笑い声が上がってました。基本的にはオーソドックスな舞台でしたが、オペラ初めての人間が見ても楽しめる演出だったと思います。フィガロが「何でも屋」を歌う場面、椅子に座ったお客が取り囲んでいたんですが、客に浣腸(だよね?)するシーンはあるわ、“カツラ!”ってとこで女の人が帽子をとると丸坊主の頭がでてくるわ(笑)。アイスクリーム屋の屋台でコーヒー飲みながらの“不思議な力を持つ金属”の二重唱、“metallo”て言うときに伯爵が見てるのがスプーンだったり。第1幕のフィナーレでは、固まってるバルトロ、手とか動かされて遊ばれてました。ひっくり返っても片足上げたまま固まってた役人さんもお疲れ様(笑)。音楽教師に化けた伯爵が振り回してたの、あれ香炉?
とりわけ面白かったのは、ロジーナが衣装道楽のワガママ娘になってたこと。「今の歌声は」なんて風呂上がりの下着姿で歌い始めるんですよ。着替えの介添えをするベルタに“それ気に入らない”“それもイヤ”って態度とりながら、“私は素直で、言われれば従うわ”って歌ってるんです。行動と歌詞のギャップがめちゃ笑えました。最後のバルコニーのはしごから出て行こうって場面では、いつの間に荷造りしたのかトランクが6つですよ! 伯爵が2つ、フィガロが2つ、本人が2つ持って。それで梯子降りるなんて絶対無理だって〜。レッスンの場面じゃやたらと伯爵にべたべたしてました(笑)。どうみてもベルタの方が楚々とした美人でしたが、なかなか愛嬌あるロジーナを好演してました。コロラチューラに変なヴィブラートがかかるのが気になりましたけどね。あんまり細いし、若い人だったので、最初黙役かと思ったベルタ。ロジーナのワガママに耐える役がはまってました(笑)。アリアの時の声量もなかなかのものでびっくりしました〜。あと声ではバジリオ役の人の声が割と良かったかな。
私のようなド素人が見ても、「何でも屋」ではあの規模のオケに負けてない? と思うところあり、バルトロの例の早口アリア、そういえばこれも相当な難曲なんだっけ、と納得してしまったりしましたが、手堅く面白くまとまっていて、ドタバタ喜劇をこれだけ楽しく見せてくれれば大満足! シラグーザが近場に来なくて、普通に名古屋公演に行ってたとしても結構満足して帰ってこれたんじゃないかと思います。いかに音楽的に素晴らしくても、ちっとも楽しくない「理髪師」なんて勘弁だし。そうそうバルトロ役の人、カーテンコールの時、拍手に合わせてステップ踏んでくれてました。
さて、お目当てで行った主役の
シラグーザ。まともに聴いたのは初めてなんですが、さすがの存在感でした。声のよく通ることといったら! フローレスほど華やかでも、ブレイクほどパワフルでもない、癖のない声なのですが、その分すーっと耳に入ってくるというか。話には聞いていた、自分でギターを弾いてのセレナーデ。明るいテノール苦手な私が、うわあいい声! と本気で聞き惚れましたよ。中間部分はフラメンコ風にアレンジして「オーレ」とやってくれるサービスぶり(一時期YouTubeでも聴けました。お約束なんですね)。酔っぱらい兵士に化けてバルトロ邸に入り込む場面では「チョットマッテ」って日本語でアドリブとばしてくれるし、あるかな、とドキドキしながら待った大アリアも危なげなく歌ってくれて、大喝采でした。(なんのことはない、ギターの弾き語りセレナーデと大アリアを条件に今度の公演引き受けたんだそうです。事前に知ってたらもっとゆったり待てたのに・・・;笑)
というわけですっかりお茶目な伯爵のファンになって帰ってまいりました。割とちょくちょくリサイタルで日本には来てくれるようなので、機会があったら聴きに行こうと思います。これだけサービスがよければ、リサイタルはさぞかし楽しいだろうと(笑)。
さて、これだけいろいろ見ると、初めてのオペラで英語字幕は辛いな、といったん見送ったアントニオッツィのバルトロもやっぱり見てみたくなるもの。しかしこの
2005年パルマの輸入盤、伯爵が
ラウル・ヒメネス(1950年生)で
ヌッチ(1942年生)がフィガロ。ええと伯爵の御年55歳でフィガロが63歳って、えらい年齢層高い主従コンビ。フィガロの父親のはずのバルトロが41歳(
アントニオッツィは1964年生)で、はるかに若いじゃないですか! ロジーナ役のメゾ、
アンナ・ボニタティブスが
ステージ写真を見るかぎりなかなか綺麗なロジーナで、歌の方もいろいろ検索してみたら、まずまず褒めてるコメントを散見したので、ロジーナ&バルトロ目当てで購入に踏み切りました。
で、一通り見た感想ですが・・・。暗いです。舞台写真を見たときに、なんか暗い舞台だなあと思いましたが、ほんとに暗い。これは「青鬚公の城」か?(見たこと無いけど)って感じ。最後までこの陰々滅々、一度も明るくなりません。いろいろ細かいところ工夫してるのは認めますけど、ストレートに笑えないというか。こんな舞台じゃ明るく楽しい「理髪師」にはなりようがないってもんでして・・・(あいにくイタリア語は読めないので、演出家のお名前は不明です)。
伯爵の
ヒメネス。なるほどいい声です。でも、お年を少々前に戻しても、ビジュアル的にぴったりの伯爵にはならないような・・・なんて思ってたら、バルトリが主役の「チェネレントラ」を見て驚いたのなんのって。ちゃんと王子様に見える〜! 優しそうな王子様じゃないですか。あれならビジュアル的に十分合格点出せます。いくら十年前だからといって、メイクと衣装でこうも違うかいと思いましたね。従者の衣装着ててもあの品の良さ。もうちょっと衣装が工夫してあったら、若者には見えないにしても、それなりに立派な伯爵様に見えたんじゃないかしらんと思います(変な話ですけど、“馬子にも衣装”を実感しました)。期待もしてませんでしたが、大アリアはなし(スタジオ録音じゃ歌ったのあるらしいですが)。「私の名前を知りたければ」は自分でギター弾いてましたが、言っちゃ何ですがシラグーザのが断然うまいです。これって弾いてるんだよね? と画面にかじりついてしまったくらいで、ギターの音がろくに聞こえません。慣れないことしないで、フィガロに弾くまねさせといた方がよろしいかと。
ヌッチのフィガロ。さっすが当たり役! と思ったメトの時だって決して若くはなかったですが、時の経つこと16年。存在感はさすがだし、「愛の妙薬」のベルコーレなんか歌われるよりは違和感ないですが、字幕に“young man”なんて出てきますとねえ・・・(苦笑)。「町の何でも屋」なんか聴いてると、そ、そんなに走り回って大丈夫? なんて気分になっちゃって・・・。拍手にこたえて、二回歌ってましたけどね(まあ、フィガロ単独の見せ場はここしかないですけど)。
この暗ーい演出の割を思いっきり喰ったのが(って書いちゃうもん)バルトロ役の
アントニオッツィ。なんだか陰険を通り越して性格異常入ってません? このバルトロ。「私のような医者には」、ロジーナいびって楽しんでる場面にしか見えません。出だしのところがややゆっくりめなのがさらにネチネチという感じで。嫌がるロジーナにセクハラまがいのシーンとかあったりするし(ロジーナちゃん、よく今まで無事でしたね・・・)。こんなスカルピアみたいなバルトロ、嫌〜!
と書いてふと思い当たりました、マドリッド公演に馴染めず、メトがお気に入りになったわけ。そう、マドリッドのこのシーンも、ここまで極端じゃないにしろ、見ててちっとも笑えなかったんですよね。バルセロナのドゥルカマーラとずいぶん違うじゃない・・・? という感じで。この場面に限らず、プラティコのバルトロを見ていて、思わず笑っちゃうような場面てのが一つもなくて。それにひきかえ、メトのダーラのバルトロ、見ててとっても楽しかったし、本人もこのオヤジをなんだか楽しそうに演じてる感じがして、それが好印象だったんですね。こないだ見に行って楽しかったスポレートの公演も、だいぶ記憶は薄れてますが、結構見てて楽しいバルトロだったはず。
というわけで、私がこの作品を楽しめるか否かはバルトロの扱いにかかってるようです。この「私のような医者には」、バルトロがまくし立ててる陰で、ロジーナがこっそりアカンベしてるくらいの感じが私の好み。それで演出のトーンも決まってくるでしょうし。
文句ばっかり書いてますが、唯一ですがちゃんと収穫もあったんです、このDVD。ロジーナ役の
アンナ・ボニタティブスがはまり役、若くて綺麗でしかも上手い! コロコロとなめらかに転がる声の気持ちいいことといったら! やっぱりロジーナは上手いメゾでなくっちゃ! ととっても実感させてくれました(もっとも、後で聴いたカサロヴァやバルトリのロジーナはさほど好みでもなかったので、歌い方まで好みに合った珍しいケースなのかも)。さすがにロジーナだけは素敵な衣装がとっても似合ってて、ビジュアル面で被害もなく(お色気サービスはありましたが;笑)。「チェネレントラ」でDVDになったりしないかなあ。こっちも絶対はまり役だと思います(
公式サイトで一時期ちょこっと聴けました)。というわけで彼女の
「今の歌声は」と
フィガロとの二重唱、
レッスンのロンドだけ端折って楽しんでいるこの頃。ときどき怖いもの見たさでバルトロのアリアも見ちゃったりしますけど(苦笑)。
さて、ラスパルマスのドゥルカマーラですっかりご贔屓になったバス・バリトン、
アントニオッツィ。この人1986年のデビューがバルトロだったそうです・・・(爆笑;この役で日本にも来てるそうですね)。「ボエーム」のショナール(録音もあるそうな)とか、「ルチア」のエンリーコなんて役もやってるそうですけど、「イタリアのトルコ人」のジェローニオ(うんと年下の妻役をデヴィーア(16歳年上)がやってる映像があるそうです・・・年齢逆でしょが;笑)とか、「ファルスタッフ」に「ドン・パスクワーレ」、DVDにもなってる「チェネレントラ」のマニフィコ、まあ弄られるオヤジの役が多いですね〜。変わったとこじゃ「トゥーランドット」のピンとか、ブリテンの「ヴェニスに死す」なんかも歌ったことがあるとか(ボストリッジと共演しませんか;笑)。ダーラとかプラティコは、外見からしてそりゃもうあなたはブッファで決まりしょう、って感じですが、すらりと長身、結構ハンサムの彼がなんでまたこんな役ばっかり歌ってるのかちょっと謎。まあ、ドン・ジョヴァンニ歌うなんて聞いたら、やめて〜! ですが・・・(笑;レポレッロはレパートリーにしてて、レイミーやデッシー、ホロストフスキーとの共演写真が
公式サイトで見られます。あら豪華)。さほど老けメイクでない今回のバルトロ、たまに素の顔が見えて、ほとんど演技力でこのイっちゃってるオヤジになってるんだなあとちょっと感心。この演技力なら「ホフマン物語」の悪魔4役なんかも達者にこなすでしょうけど、普通〜にスーツ姿だった「ドン・パスクワーレ」のマラテスタなんか見てると、やっぱりこのくらい年相応の格好がはまる役を見たいもんです。「こうもり」のアイゼンシュタインとか面白そう。まだ若いんですし(笑)。
ま、公式サイトの写真見てると、さらに極端な扮装のバルトロもあるわけで、役が役だしこんなもんか、と変に納得はしたのですが、ちょっと物足りなかったのが早口アリア。公式サイトで聴き慣れたスカラ座のに比べると低音の響きが今一つ、な感じなんです。この
1999年のスカラ座公演、日本でもTV放映されたとかで、見たいな〜、とじたばたしてたら、ご厚意で見せていただけてしまいました。
はい、
フローレスが大アリア歌ってない「理髪師」です(笑)。なんだかシュールな演出で、フィガロは気球に乗って登場するわ、「何でも屋」歌ってるときに空に巨大はさみが登場するわ。どうやら私、コーラスでもない人間が後ろをうろちょろする演出ってどうも苦手らしく、マドリッド公演同様、何だか馴染めませんでした。しかし、この演出のバルトロがえらくまともでびっくり。お髭ちょっと生やしてスキンヘッド、黒の衣装が長身によく似合ってて、格好いいともいえるほど(
こんな感じ。)DVDと比べりゃ、数段見やすい(笑)! でもちょっと猜疑心が顔に出てるバルトロなんで、もう少しコメディーに徹してくれた方が好みかな〜。その点、映像で見る分にはやっぱりメトのダーラのが好きですね。音は断然こっちをとりますが。ええ、当節このアリアを一番上手に歌えるのはこの人だと思っております、私(笑;プラティコも悪くないけど、声軽いんですもん)。
個人的にこの映像のコメディー大賞は、なぜか常に奈落から登場するバジリオ。「湖上の美人」で父ダグラス役だった
ジョルジョ・スルヤン。こんな軽妙な演技できる人だったんですね〜。声はも少し低音がしっかり響く方が好みなんですが、バジリオの出てくるシーンは文句なしに楽しかったです。ただし、陰口のアリアはなるべく後ろを見ないようにしてました。そこだけどうしてそう黙役使ってリアルにやるんですか・・・。
あと、地元の図書館で
2001年のチューリッヒ公演が借りられたので、これも見てみました。
えと、声は好き嫌いという判断基準がありますが、私、楽器の上手い下手はさっぱり判断できません。滅法上手いとド下手の区別くらいならともかく、ある程度以上のレベルになるとお手上げです。なので、オペラを聴くにしてもオーケストラは鑑賞の対象外。指揮の良し悪しについても左に同じ。ただし、これについては一つだけ好き嫌いが判断できるところがあります。テンポ。あんまり合わないと気になる、というレベルですが。はい、この演奏、真っ先にこんなことを書きたくなるほど、テンポが合わなくてしんどかったのでした。普段は多少テンポの揺れがあろうが、聴かせどころを伸ばそうが、別に気になる方じゃないです。でも、ここまで崩されますとね〜。歌手さんが歌いやすいのかどうかは知りませんが、少なくとも私は曲のリズムにのれませんわ・・・。聴いてて窒息しそうな演奏なんて、初めて。
演出は現代風で、フィガロはサイドカーに乗って登場。結構しゃれてて面白く、好みの舞台だと思います。これで適材適所のキャスティングだったらさぞかし面白かっただろうという・・・(苦笑)。外してないのはロジーナの
カサロヴァくらいですか。声もお顔も体格も迫力あるお方ですが、なかなか愛嬌のあるロジーナで良かったと思います。「今の歌声は」でチョコレート食べようとして、腰のお肉つまんでやめる場面が傑作(笑)。その後バルトロの実験室(?)でいたずらしまくる場面も面白かったです。
問題は男性陣。まず
マシアスの伯爵。声はともかく、見た目が完全におじさん。それもその辺にいそうな感じの。辛うじて音楽教師に化けてる場面だけ、眼鏡のおかげか何とか見れましたが。こういう演出なんだから、「アルマヴィーヴァは私だ!」のシーンでは颯爽と高級スーツでも着てきてくれないと、ちっとも説得力が無いってもんです(って文句は演出につけるべきなんでしょうが、この人じゃどんなスーツ着せても様にならないと思う・・・)。続いて
ランサのフィガロ。一生懸命演技してるのは分かるんですが・・・面白くない。これでバリトン? 声細っ! と思ったマドリッド公演のスパニョーリ、結構健闘してたんだ、と思いました。ヌッチに比べれば見劣りするとはいえ、ちゃんとフィガロに見えましたもん。バルトロの
ショーソン。バルトロ役では第一人者なんだそうですが・・・確かに、伯爵やフィガロに比べれば役にははまってたと思います。でも、チョビ髭に細身の体型が連想を誘ったわけですが、アントニオッツィがこの役だったらなあ・・・と思ってしまいました。早口アリアもそれほど上手いとは思わなかったですし。バジリオは
ギャヴロフ。御年72歳と聞けばそりゃもうご立派のひとことに尽きるわけですが、何も知らずに見たら、なんだかしょぼくれたおじさんだなあ、という印象でしかなかったと思います。
さて、METライブビューイングの「連隊の娘」で大スクリーンで見るオペラってのもなかなかいいなあ、と味をしめたところ、7月に
ポネルの映画版「セビリアの理髪師」の上映会があるというのを知りました。YouTubeでビデオクリップをいろいろ見比べて、これなら見てみたいなと思っていた映像。でも土曜日に「チェネレントラ」の舞台で木曜日がこれ、という強行スケジュールになるんですね・・・。しばし悩みましたが、ほぼ唯一の予習不要の演目、画面に日本語字幕はついてるし、そこまで気合いを入れなくても楽しんでこれるだろう、とチケット買いました。しかしさすがに平日の夜。息せき切って職場を飛び出す羽目になったし、何かと疲れのたまっている木曜日の上、休憩無しの一気上映、途中からおしりが痛いのなんの・・・(苦笑)。
ええ、楽しかったです。久しぶりに素直に笑える「理髪師」を見たな〜、と思いました。ただ、こちらのコンディションが万全でなかったのもあると思いますが、メトの映像や、去年見たスポレートの舞台ほどにはノれなかったかな・・・という印象。
何ていうか、キャストがみなさんちょっとずつ大人しい・・・ような気がいたしまして。例えば
プライのフィガロ、お金もらえなくても伯爵手伝っちゃってそうな感じするんですね。根は抜け目がない商売人って感じは、ヌッチのが巧い、気がする。
ダーラのバルトロは、そりゃメトの映像のが断然面白いし(まだ若い頃なんですね)、
モンタルソロのバジリオも、「チェネレントラ」のマニフィコの方がインパクトあったなあという感じ。出番の量の問題かもしれませんが。伯爵も変装場面でのノリがちょっと・・・。
ベルガンサのロジーナが、おてんばじゃなくてちゃんとお嬢様してたのは新鮮で面白かったですけど。上品で綺麗なロジーナを初めて見たので、ついついベルガンサにフォーカスしてました。(
「今の歌声は」と
フィガロとの二重唱)
さすがに映像作品だけあって、捨て台詞をはいた後のフィオレッロの顔の大写しとか、カメラワークだけで笑いをとるシーンなんてのもありました。ただ、演出はちょっと細かすぎというか、え、今の何だったの? なんて思ったところもちらほら。例えば、バジリオの「陰口のアリア」で、容器に火を燃やしてるんですね。何やらやたらに薬品を火の中に投入するもんですから、私、てっきり、歌詞に大砲が出てくるあたりでドカンと爆発するのかと思ってたんですよ。でも、別段派手なシーンにはならなくて、じゃああの薬品はなんだったの? と。フィガロがお皿や何やらを壊すシーンで実際に爆発のシーンはありましたけども。冒頭の、楽士たちを追っ払うシーンも、お金なんかばらまいたら、余計収拾がつかなくなるんじゃないの? などと・・・。ただ、
「ドン・バジリオ!」の5重唱には感心しました。落っことしたお金を拾いに戻ってくるって設定、上手く考えましたね。
「チェネレントラ」の映画版はロマンチック路線が良かったですが、この演目のはじけた感じは、舞台の方が上手く出せるんじゃないでしょうか・・・。全体になんとなく、筋が通りすぎてる感じがありました。・・・とかなんとかいいつつ、廉価盤が出たDVDを買ってしまった私でありますが。
などと長々駄文を書き連ねておりましたら、
浜松の「こうもり」でご一緒したSardanapalusさんからプレゼント。
2005年ロイヤルオペラの録画です。初心者のくせして、なんと8つめの「理髪師」(笑)♪
衣装や舞台装置は随分明るくポップな舞台ですが、良い意味で素直な演出、だから何がやりたいのよ?! と首を傾げる場面はなくて、こちらも素直に楽しめました。バルトロ邸は三方壁のセットで、時々壁に穴が空いて登場人物が出てきます。はしごがかかるのもこの穴(そういえば、いったいいつこのはしご消えるんだ! と変なところでドキドキさせてくれました;笑)。1幕のフィナーレでこのセットごと傾けちゃったのには、おおっ! と思いました。まあその分セットがコンパクトになるというか、人の動きはちょっと制限されてたような。ロジーナと伯爵の密談をバルトロが聞いちゃうシーンなど、あれじゃ聞こえるよな〜、なんて思ってしまったり。
この演目、時間との兼ね合いがあるのか、上演によってカットするところが違うんですが、この上演、8度目にして初めて見たよってレチタティーヴォがいろいろあって面白かったです。まずバルトロのアリアの後の「負けないわよ」ってロジーナの捨て台詞。台本(対訳)読んだ時に、これあった方がいいのに、と思ったとこだったので、ちゃんと喋ってるのを見て嬉しくなりました。レッスンの場面でのロンドも、最後の方にこんな二重唱あったんですね。公証人がフィガロの姪の結婚の準備中で・・・というバジリオとバルトロと会話もあったし。ロジーナの財産がバルトロのものになるくだりなんて、あってしかるべきだろうと思うのに、これもちゃんと喋ってるのを初めて見ましたよ。大アリアが無いことを除けば、一番台本に忠実な上演ではないでしょうか。
キャストで文句なし、最高! だったのがフィガロ♪ そうそう、こういうフィガロが見たいのよ〜! というイメージ通りの声、容姿もぴったり、商売人らしい愛嬌と抜け目のなさがちゃんと出てて、演技もどんぴしゃ。
「何でも屋」アリアにこれだけ引き込まれたのは、レオ・ヌッチ以来です。床屋の三色柄のシャツなのですが、これがネオンつき、客席から登場する時にはぴかぴか光ってるのですけど、そのド派手衣装に負けてない存在感でした〜。この
ペテアン、濃い顔立ちなのでてっきりラテン系かと思ったらルーマニア人だそうです(・・・ラテン系にゃ違いないか)。このまま「フィガロの結婚」のフィガロもできそうですね。
ロジーナの
ディドナート、ロッシーニには定評があるメッゾ。明るい美人さんで役にはぴったり、そして確かに巧いです。けど、ソプラノかと思うくらい装飾が多いのが個人的にはちと聞きづらい。これだけ気の強そうなロジーナならまあ、このくらいアクセントきつくてもいいのかな・・・、という感じ。強気のキャラクターは気に入りましたが、あれ? と思ったのが、リンドーロに裏切られたと思い込んで部屋をめちゃくちゃにする場面。なんだか“狂乱の場”っぽかったです。怒りにまかせてぶっ壊してくれた方がこのキャラクターには合ってたと思うのですけど。
伯爵は
トビー・スペンス。名前は聞いてましたが見るのは初めて。収録時には不調だったそうなので、その分割り引いて考えなきゃいけないのでしょうが、この役歌わせたら自分が一番! と思っているであろう歌手を見慣れた身には、なんか地味だなという印象。でも、フィガロが主役なんだと思って見る分には、若くてハンサム、お芝居も悪くないです。個人的には兵隊さんのシーンが一番格好良かったです(お髭は無い方がいいような)。どうも酔っぱらいには見えませんでしたし、お約束のチャンバラが無かったのも、あれ? って感じでしたけど。ラストでおもむろにカツラを出してきてかぶるシーンには大笑いました〜。
バルトロは
プラティコ。アリアではあのオケ置いてく勢いの早口も披露してくれました。しかし、マドリッドに引き続いての陰険系。この人のとぼけたドゥルカマーラが大好きな私としては、一度お間抜け系のバルトロを見てみたいものです。
バジリオも、私としては飄々としたキャラクターのが好きなのですが、この演出ではなんだか魔女の男性版といった風貌。陰口のアリアではあまりのコワさにバルトロが逃げ出してたりして・・・(笑)。
ベルタは日本髪のパロディですかという髪型。結構若い歌手が歌っている上演が多いし、存在感薄すぎって人もたくさん見ましたが、ここでは珍しく年齢相応の歌手さん。バルトロの部屋のお酒を失敬して歌うアリアもなかなかインパクトありました。
フィオレッロ役の
グリアドウも好みの低音、なかなか格好良い人ですね。伯爵が木の上でセレナーデ歌ってる時は退屈そうにしてたし、楽団員にお金渡すときにはちゃっかりちょろまかし。やってらんねーぜ、の捨て台詞などぴったりでした(笑)。
夏の「こうもり」でとっても気に入ったフランク役のジョン・デル・カルロ、そういえばライブビューイングの映像のバルトロだったんだっけ、と思い出してYouTubeに見に行ってみました。お間抜けな感じはしませんが、頑固オヤジ系のバルトロで面白かったです。役作りではいい線いってます。ただ・・・やっぱりこのアリアって難しいんですね〜。だいぶ危なっかしく聞こえました・・・。ついでにレリエのバジリオも拝見。迫力のある声だし、とぼけた感じがいいです。マッティのフィガロが?だったのであまり興味の持てなかった映像だったのですが、改めて見ると、ふーんと思うところも。全幕通して見る機会はもう無いでしょうが。
いろいろ見ましたが、未だに2番目に見たメトの映像がお気に入りのダントツというあたり、好きな割にはなかなか気に入る映像に出会えない演目のようです。初の生舞台があれだけ楽しめたというのは・・・やっぱりこれ、舞台を見に行って楽しむ演目なんでしょうかね。
しかし懲りずにただいま目をつけているのがダリオ・フォーが演出したアムステルダム公演のDVD。「チェネレントラ」のタイトルロールで随分気に入ってしまった
ジェニファー・ラーモアがロジーナを歌ってるので。以前にYoutubeで見ていたのですが、音があんまりヒドイので退散してたんです(
こんな感じ)。でもラーモアだというので気合いを入れ直して(笑)見に行ってみたら、なかなかぶっ飛んだ演出で、楽しそうです。
当たり役の割に録音も映像もないシラグーザの伯爵ですが、いつか彼の「理髪師」がDVDになることがありましたら、ロジーナはご贔屓メゾさん(じゃなきゃせめてこのくらい美人で、比較的素直に歌ってくれるメゾ)、バルトロも是非ともご贔屓バッソ・ブッフォ、落ち着いた伝統演出かセンスのいい現代風演出、でなおかつ底抜けに明るく楽しいドタバタ喜劇であってくれることを望みますが、無理かしら。