「探偵小説に中国人を登場させてはいけない」という決まりがあるんだと聞いたことがあるんですけど、何ででしょう?
アール・デア・ビガーズ Earl Derr Biggers | ||||||
「何という映画だ」 「チャーリ・チャン・イン・パナマ」 「ワーナー・オーランド、それともシドニイ・トーラー?」 「シドニイ・トーラー」 なんてポールとスペンサーの会話が『初秋』に出てきましたが、むしろ映画の方で有名らしい名探偵チャーリー・チャン。見たことはないんですが、刑事コロンボみたいな感じで思い浮かべればいいのかな?(ワーナー・オーランドとシドニイ・トーラー、というのはもちろん、はまり役になった俳優さんのお名前です。) ぼさぼさ頭にくたびれたトレンチコート(だったよな?)、二言目には「うちのかみさんが・・・」を連発するのが刑事コロンボなら、子沢山で恰幅のよい小男、論語や古諺をやたらに引用するのがホノルル警察の部長刑事チャーリー・チャン。謙虚で控えめな東洋人、てキャラクターではありますが、その分“ほめ殺し”の名手であるような気もしますね(笑)。 というわけで、タイプとしては地道にこつこつと、の〈凡人型〉の名探偵です。 ストーリーも面白いし、登場人物も個性豊かで、大変楽しく読めると思うのですが、創元の2作も現在絶版。なんとかならんもんでしょうか・・・ | ||||||
世界一周旅行中の元ロンドン警視庁の副総監フレデリック卿が、滞在先のカーク・ビルで射殺された。15年前のインド国境での新婦失踪事件の謎を追っていた卿は、真相究明まであと一歩というところにきていたらしい。事件現場に居合わせた休暇中のチャンは、11人目の子供誕生の知らせに帰宅の決心をしていたが・・・
世界観光旅行団に参加していた老富豪が、ロンドンのホテルに滞在中に絞殺された。ニース、サン・レモでも引き続いて殺人が起き、ロンドン警視庁は旅行団の乗る船に捜査員を潜入させたが、あと一歩のところで彼も殺害されてしまう。一行を追ってホノルルに到着するも犯人に銃撃されて重傷を負ったダフ警部は、チャンに捜査を引き継いでくれるよう頼んだ・・・ | ||||||
シリーズ作品リスト 創元推理文庫 | ||||||
『鍵のない家』 The House without a Key 訳:小山内徹 〈芸術社「推理選書10」〉 1925 |
『シナの鸚鵡』 The Chinese Parrot 訳:三沢直 〈ハヤカワ・ポケット・ミステリ〉 1926 |
『チャーリー・チャンの追跡』 Behind that Curtain 訳:乾信一郎 1928 | ||||
『黒い駱駝』 The Black Camel 1929 |
『チャーリー・チャンの活躍』 Charlie Chan Carries On 訳:佐倉潤吾 1930 |
『チャーリー・チャン最後の事件』 The Keeper of the Keys 訳:文月なな 論創社 1932 |
S・J・ローザン S. J. Rozan | |||||||||||||
リディア・チン、28歳。身長5フィート1インチ(約153センチ)。女性探偵にしては珍しく、母親と二人暮らし。おまけに兄が4人もいて、探偵稼業に反対な家族全員からしょっちゅう干渉を受けていたりも。あと、テコンドーの名手とあるのに、あれ、と思いましたが、チャイナタウンのカンフー教室は女の子を入れてくれなかったからなのですね、納得。 ビル・スミス(これで本名;笑)。半分アイルランドの血を引く白人で、背が高く、こわもてがする中年男性。美術方面に造詣が深く、ピアノの腕前も玄人はだし。 それぞれ自分の事務所を持つ独立した探偵なのですが、仕事上、相棒が必要になった場合はお互いに声をかけるという関係で、交互に主役を務めるというシリーズになっています。相棒以上の存在になることを求めているビルと、このままの関係を維持したいリディア。つかず離れずの微妙な関係も読みどころです。 ビルが冗談めかしてしょっちゅう口説いているという設定もあって、会話が洒脱でテンポも良し。人物、ストーリーの造詣ともに丁寧で、しみじみとした読後感の味わえる佳作シリーズです。 油条にお粥、なんて朝ご飯をリディアが食べていたりして、かなりチャイナタウンに関してはリサーチが行き届いているようなのですが、それだけにえらく気になってしまったのが彼女の中国名。チン・リン・ワンジュでフルネームみたいなんですが、それだと漢字三文字という中国人にはまずありえない名前になんだけど・・・と不思議に思っていたら、第5作『苦い祝宴』にようやく理由らしきものが。もともとリン・ウという名前になるはずだったのが、あまりに小さいのでお兄さんは「玩具」(ワンジュ)かと思った、というのでこの名前になったんだとか。しかし、「たいていの中国人よりひとつ余分に名前を授けられた」というあたりで再び??? それだと例えば「毛沢東」なら「沢」がファーストネーム、「東」がセカンドネーム、と理解してることになりませんか? 中国人の名前をアルファベットで書くと、たいてい漢字を一字ずつピンインに直すから、そういう誤解も生まれるのかな・・・? | |||||||||||||
旧正月を控えたある日、チャイナタウンにある美術館から、寄贈されて間もない貴重な磁器が盗まれた。評判を憂えた役員は事件を表沙汰にするのを望まず、旧知のリディアに調査を依頼する。パートタイムのパートナーであるビルとともに、リディアはチャイナタウンのギャングを手始めに、美術商、美術館へと捜査を広げていくのだが、事件は殺人事件に発展していった・・・
ブロンクス・ホーム養老院で深夜、警備員が殴り殺された。手口から地元の不良グループの仕業と判断されたが、納得がいかない被害者の叔父ボビーはビルに調査を依頼した。かつて探偵の手ほどきをしてくれた彼の頼みに、ビルは警備の交代要員として潜入捜査を開始するが・・・
新進デザイナー、ジェンナ・ジンの春物コレクションのスケッチが消えた。次いで5万ドルの現金を要求する電話がかかり、評判の失墜を考慮したジェンナは、強請に応じるべく“身代金”受け渡しの仕事をリディアに依頼した。相棒ビルを援軍に指定の場所に赴いたリディアだったが、不意の銃撃に浮き足立った一瞬をつかれ、何者かに金をさらわれてしまう。汚名返上のため、事件の真相を探ろうとするリディアとビルだったが・・・
マンハッタンの建築現場で工具が頻繁に紛失する。見積もりを抑えて入札した都合もあり、建築会社はクレーンの操作係の失踪を機に、疑わしい班長の素行調査を探偵事務所に依頼。仕事をまわされたビルは、レンガ工として潜入捜査を開始したが、ほどなく一人の工員が瀕死の重傷を負う事件が起きた・・・
中華料理店で働く青年4人が、ある日突然揃って姿を消した。彼らが勤めていたのは、チャイナタウンの大物が経営する有名店。最近始められた組合活動に関して、店と対立があったらしいが、その程度のことで拉致されたり消されたりするはずもない。組合の顧問弁護士である友人のピーターから話を聞き、半ば強引に捜索の仕事を引き受けたリディアだったが・・・ | |||||||||||||
シリーズ作品リスト 訳:直良和美 創元推理文庫 | |||||||||||||
『チャイナタウン』 China Trade 1994 |
『ピアノ・ソナタ』 Concourse 1995 |
『新生の街』 Mandarin Plaid 1996 |
『どこよりも冷たいところ』 No Coulder Place 1997 | ||||||||||
『苦い祝宴』 A Bitter Feast 1998 |
『春を待つ谷間で』 Stone Quarry 1999 |
『天を映す早瀬』 Reflecting the Sky 2001 |
『冬そして夜』 Winter and Night 2002 | ||||||||||
『シャンハイ・ムーン』 The Shanghai Moon 2010 |
『この声が届く先』 On the Line 2010 |
『ゴースト・ヒーロー』 Ghost Hero 2011 | |||||||||||
『夜の試写会』 〈短編集〉 2010 |
『永久に刻まれて』 〈短編集〉 2013 |